第7話:幸せな日々
はたして次の日。
「今日はこれです!」
「あ、あんたこれ担いで来たの……?」
彼女は、今は懐かしいゲームキューブを持ってきた。
「ええ。なにか?」
「……いや」
何でもないことのように言うクロ。そりゃプレステとかに比べたら軽いかもだけど、正方形だし運びにくいでしょうに。そこまであたしに勝ちたいのか。なんてやつだ。
「さあやりましょうやりましょう」
勝手知ったる、といった風にどっかりとテレビの前に陣取り、ガチャガチャとコードをいじくってテレビにつないでいる。うわあ、懐かしいこの感じ。
クロがガチャガチャやっている間に、あたしは飲み物とお菓子を用意して持っていく。もう慣れたものだ。
「しかしキューブってまた。あんたの世代ならもう時代遅れだったんじゃないの?」
「世代的にはそうですけど、しかし任天堂の最高傑作はハードソフトともにキューブだと私は思うのです!」
「……それには同意するけど」
あたしも特別ゲームをやりまくっていたわけじゃないけど、それでも友達の家とかで遊んだときは楽しかったことを覚えている。というか、結局クロはいくつなんだ?
「ちなみにソフトは?」
「ゲームキューブのソフトの中でも神ゲーとうたわれる、これです!」
今日はいつも以上にテンション高めのクロ。もったいぶりながら取り出したのは『カービィのエアライド』だった。
「お、エアライドじゃん」
「さすが、ご存じでしたか。でも、言っときますけど私は強いですよ!」
「ま、せいぜい頑張るわ……」
実を言うとレースゲームはそんなに得意なほうではない。彼とやったときもなかなか勝てなかった。あいつはそういうところ、手は抜かなかったからなぁ。そういえばこのゲームを始めてやったのも彼の家が初めてだったか。
……ああ、ここのところクロのおかげで忘れられていた
「…………っ」
欝々としたスパイラルにとらわれていると、3カウントとともにレースがスタートしてしまった。
「ほらほら何ぼさっとしているんですか! 勝負はもう始まっているんですよ!」
「……おおっと」
あわててコントローラーを握りなおす。遊んでいるうちは少しは忘れることができるだろう。今はこの流れに身を任せたい。
「ふおおおドリフトォ!」
「……くっ」
なるほど言うだけのことはあるようだ……。しかし負けんぞ……ってあたしまで何をノってるんだ。でもいいか。楽しいし。
楽しいことはいいことだ。
「あ……やばい」
負けそう。
「クロ選手、今、ゴール!」
負けた。
「ふはははどーですか、私の実力は! 恐れ入りましたか!」
……………………。
「くやしい」
「え、何ですって?」
「超くやしい」
「そうでしょうそうでしょう!」
あたしの顔色の変化にも気づかず、クロは目の前の勝ち星に目がくらんで有頂天になっている。いやあやっぱり私って何やっても天才なんですねぇなどと今までの遊びの結果を一切顧みていない発言までしている。
「だから次あたしに設定いじらせて」
「ええいいですとも!」
調子に乗っているクロは、あたしのお願いを簡単に許してしまう。そうやって調子に乗っていると足元をすくわれるというのは学ばない人間の業だぞクロ。心の中で苦言を呈しながらレース設定を少々いじる。
「はい、いいわよ」
「それでは第二レースです!」
マシンを選び、ランダム設定にしてあるコースは選択せずにレースが始まる。
「ハンデ設定は満足にいじれましたか?」
『3』
「そんなところいじってないわよ」
『2』
「え、じゃあ何を?」
『1』
「――耐久値ありにした」
『GO!』
スタート直後にクロの操縦する機体に特攻を仕掛ける。
「ええっちょ!」
「問答無用」
このゲームでは機体に耐久値を設定でき、レース中に耐久値が尽きると失格になる。つまり、たとえレースに勝てそうになくても相手の機体をつぶしてしまえば勝てるということだ。今回はそのために攻撃力の高い機体を選んでいる。あたしの得意な戦略だ。
「なるほど……負ける前に勝つ、ということですね! 受けて立ちまあああ!」
「……」
ごちゃごちゃしゃべっている間に自機がやられたクロはコントローラーを放り出して叫んだ。
「そんなあああ!」
「残念だったわね」
「……」
唖然、といった顔で固まっているクロ。ふふふ、ざまあみろ。今度はあたしがドヤ顔をする番だ。
「さっきは気を抜いちゃっただけよ。これがあたしの実力」
「……ふふっ。ふふふふ。やってくれましたね。でも……」
不気味な笑い声とともに、クロが不敵な笑みを浮かべる。
「……今も気を抜いていていいんですか?」
「えっ――あっ」
調子に乗って気を抜いていたところを、後ろから突撃してきたCPにやられた。しまった、あたしこそ学んでないじゃない。
「……ちっ」
「残念でしたね」
「……もう一回よ」
その後もぎゃあぎゃあと騒ぎながらゲームを楽しんだ。
楽しかった。とても。
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