第6話:負けず嫌い
自分の得意なゲームであたしに負けたのがよほど気に食わなかったのか、クロはとっかえひっかえボードゲームを持ってきた。
「今日は将棋で勝負です!」
といっては将棋盤(さすがにテレビで見るようなお高いホンモノではなかったが)を持って来たり、
「今日はモノポリーで勝負です!」
といっては大きな箱を抱えて来て、中のお札がぐっちゃぐちゃになってしまっているのに悲鳴を上げていたりした。どれも子供の頃に遊んだ記憶のあるゲームで、あたしは懐かしさも含めて楽しんでいたのだが、いよいよクロが圧勝することはなかった。
敗走と迷走を重ねたクロは、どうやらまだ遊んだことのないゲームなら勝てるのではないかという結論に達したようだ。
「今日は……これで勝負です……!」
ついにあたしが見たことも聞いたこともないゲームを持ち出してきた。
左右に大きな穴がそれぞれ一つ、間に二列七穴があり、穴にはビー玉を何個かずつ入れる。先攻後攻を決め、先行は任意の穴を選び、その穴の中のビー玉を隣の穴に一つずつ入れていく。最後のビー玉を入れた穴が空でなければ、その穴の中身を全部取って再び一つずつ入れていく。空の穴で終わったら自分のターンはおしまい。この時自陣で終われば向かいの穴のビー玉を全部取れる。最後にビー玉を多く持っていた方の勝ちというゲームだ。
説明書を読んでゲーム内容を把握する。ふむ、なかなか面白そうじゃない。
「しかし、こんなのどこで見つけてきたのよ」
「まあ、ちょっとした縁といいますか……」
よくわからないが、ともかく必死こいてあたしの知らなそうなゲームを見つけてきたらしい。目の下にクマができている。
「さあ勝負です勝負! あなたが絶対にやったことのないゲームを用意したんです。今日こそ勝たせていただきますよ!」
「ねえ、なんかもう目的かわってない?」
もはやクロがただゲームで勝ちたいだけになってない、これ? あたしのこととかもう時空の彼方よね。
「まあ楽しそうだからいいけど」
というわけで、チョンカで遊んでみる。なるほど、これは数学的なアタマを使うゲームだ。どこから動かし始めれば自分が一番点数を稼げるのかを考えるゲームらしい。思いっきり必勝法とかありそうだけど、ゴリゴリに計算しても面白くないのでその場その場でなんとなく計算してゲームを進める。
「なるほど。だいたいわかってきたよ」
「えっ」
クロが思わず、といった風に喉の奥から濁点の混じった声を出す。
「なによ」
「ゲームを把握するの、早くないですか」
「そうなの?」
「……私なんて昨日一晩かかったのに」
あっ、こいつ一人だけ先に練習していたのか。あいかわらずなんてやつだ。
「対CPUでようやく恒常的に勝てるようになったところだったのに……」
「えっなに、これパソコンのゲームとかであるの!?」
「携帯のアプリでありますよ」
こんなマイナーそうなゲームが……? 衝撃だ。世界は広い。あ、ていうか現地でメジャーだったらそれくらいあるよね。今はグローバルな社会だし。ゲームもグローバルなんだねきっと。知らんけど。
「お、やったあたしの勝ち」
「……ばかな」
さすがに初めのうちは負け続けで『へっへーん! どうです、また私の勝ちですよ!』などとクロが必要以上に煽ってきていたが、ゲーム数を重ねるうちに徐々にあたしの勝ち星の割合が増えてきた。
「これで、あたしの勝ち、っと」
「え、あれ、そんな……」
流れるようにビー玉を回収できたときとか結構爽快感があっていい。こりゃちょっとハマりそうだ。
「一晩かけて……練習したのに……」
結局これでもクロがあたしに勝ち誇ることはできなかった。
「な、なんで勝てないんですかぁ……」
涙目(むしろもう泣いている)になりながら訴えかけるクロを見ると、さすがに申し訳なくなって来た。というか単純にかわいそう。しかしこちらから慰めの言葉をかけても余計悔しがるだけだろうし……。うーんと頭をひねらせ、
「実はあたし、ボードゲームは結構強いっていう自信あるんだよね。テレビゲームはあんまり得意じゃないんだけど」
と、ぼそっとつぶやいてみた。
「うう……」
クロはうんうんとうめき声をあげ、悔しがるのに夢中といった感じで聞こえなかったふりをしていたが、その耳はしっかりとあたしの言葉をとらえているようだった。なんせ、どう見たってクロの顔が『ふっふっふ、これはいいことを聞きましたよ』という表情になっていたからだ。
これで多少は気持ちを持ち直したらしい。今日はふらふらと帰ることなく、晩御飯を作ってくれた。今日は冷しゃぶらしい。クロの機嫌がよくなってよかった。
あれ、なんであたしがクロの心のケアをしているんだ……?
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