第64話 巡り合わせ
『じゃあ、タケルは別の世界から来たの?』
「うん、そうだよ」
『へえー、すっごいなあ。
朝起きてから、僕の唯一の仕事は巨竜と談笑すること。昨日はいつ潰されるのかとヒヤヒヤしていたけど、地面から顔だけを出すスィスモスは威圧感もほどほどで、軽い話し方も相まって正直楽しい。慣れって怖い。
周辺では、朝から多くの兵や
「随分と、仲良くなったもんじゃのう……」
僕とスィスモスの会話を見ていたダリウスさんが呆れたような声を出す。スライが念心で会話の内容を共有しているので、話が聞こえているのだ。どうやら昨日ゼストさんに聞こえていなかったのは、スライのことを知らないゼストさんを警戒したためだと言う。スライムのくせに意外と繊細だ。
「そ、そうですかね……ははは……」
『人間と話すのは
「しかし、古竜スィスモスとは……我らにとっては伝説のような存在じゃ」
『あはは、伝説だなんて大げさだなあ。ボクなんかまだ
「幼竜とな。一体、いつからこの山に?」
『うーん、大体――二百年くらいはここにいるかなあ。結構前だから忘れちゃった』
「途方もない話じゃのう……」
自分より遥かに歳上の幼竜を見ながら、ダリウスさんが遠い目をする。
『そう言えば、オジサンもお城の人だよね? ごめんね、なんか知らずに攻撃しちゃってたみたいで』
「それはまあ、とりあえず防げたからいいんじゃが、できれば勘弁願いたい――」
『へえ! あれを防いだんだ、人間なのにすごいねえ! 一体、どうやって?』
「儂の
頭部全体を光らせながら、またもダリウスさんが遠い目を見せる。片や、スィスモスはその大きな瞳をキラキラと輝かせていた。
『へえー、すっごいなあ。人間って面白いよねえ。タケルの
「変な、って……」
『あはは、ごめんね。でもタケルのおかげで久しぶりに楽しくお喋りができるんだから感謝しないとね!』
スィスモスを屈託のない笑い方をする。自分で言うように本当に子供みたいだった。二百年以上もの年月を生きていると言われると一歩引いてしまうが、話しているとそれを忘れそうになる。
『そう言えば、言葉が分かる
「あ、そういえば紹介してなかったね」
「いや、ちょっと待ってくれ。別に俺は紹介しなくても――」
僕が懐から瓶を取り出そうとするとスライがそれを止めようとする。
『ちっちゃくて見えないけど、それは……』
「挨拶くらいしなよ、スライ」
「どうも。スライです。見ての通り――って見えないか。ただのしがないスライムなんで俺のことはお気になさらずに……」
そう言えばスライは僕とスィスモスの通訳に徹していて、前に出てこなかった。古竜を前にして緊張でもしているんだろうか。
「スライ、どうしたの? なんか変だけど」
「馬鹿言えよ。竜族と平気で話してるお前の方がどうかしてるぞ、タケル。こんだけ近くだと魔力が凄くてブルっちまってよ……」
「そういうもんなんだ」
『あはは、スライムは魔力に敏感だからねえ。怖がらせちゃったらゴメンねえ』
「め、滅相もない……」
緊張ではなく怯えた様子を前面に出しているスライ。確かに、スィスモスとスライじゃ、象と蟻なんか比じゃない程の違いがある。城壁にいる時から、スィスモスの魔力を感じていたくらいだから仕方がないか。
『でも、スライムがボクらの言葉を理解できるなんて話も聞いたことがないけど』
「それはスライの
『スライムが
スィスモスが何に驚いたのかは分からないけど、勝手に納得しているように見える。
『それはきっと、タケル――キミの星の巡り合わせだね。キミを中心に物事が絡み合っているような魔力の流れを感じるよ。それは、
「ふむ、中々に言い得て妙な感じじゃの。勇者となるための
『オジサンも中々いいこと言うねえ。うん、間違ってないと思う』
「古竜のお墨付きを貰えるとは、長生きしてみるもんじゃの」
ダリウスさんとスィスモスはそんなことを言って笑い合っていた。
結局、この日はお喋りだけで日が暮れた。
ゼストさんが怒号を上げながら駆け回ったり、マークスさんが高笑いをしながら踊るようなステップを踏んでいたりと、中々直視できない光景もあったけど、僕たちを他所に魔獣狩りが進んでいく。
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