第七章 勇者たる所以《ゆえん》
第63話 かゆみのもと
巨竜が
城へと戻った僕たち――特に僕に、
「あの巨竜と会話ができたとはにわかに信じがたいが……それで、スィスモスは何と?」
ダリウスさんが話を切り出す。
「ひとまず攻撃はしないと言っていました」
「向こうに攻撃の意思――王国を滅ぼそうとは思っていないということか?」
「はい。あの熱線は攻撃ではなく、その――
「くしゃみで滅ぼされては敵わんな」
スィスモスが大人しくなったので落ち着いたのか、王様が横槍を入れてくるが、ダリウスさんに睨まれてすぐに口を閉じた。
「ひとまずは安心ということか――しかし、何故巨竜が目を覚ましたのだ。何かの兆しなのか?」
「いえ、それが――これも説明しづらいんですけど、『背中に何かが這い回っているのが
「痒い?」
「何を言っているのか分からないと思いますが、ちょっと心当たりがあります……」
話を進める僕に視線が集まる。大人数の前で喋るのは少し気後れするけど、恐らくこの予感が当たっているだろうという思いもあった。構わず、話を続ける。
「恐らく、
僕の言葉に、皆反応に困っているようだ。
「ディグドッグなんて魔獣が一体……?」
「前に、メイリンと訓練で魔獣討伐をしている時、スィスモス山のディグドッグ討伐をしました。山に大量発生してしまっているけど、少ない報酬しか出せなくて中々対応が進んでいないとも聞いてます」
「そうだわ、ディグドッグは深く巣穴を掘る魔獣。大量発生した魔獣がスィスモスの体を傷つけていた、ってこと……」
いち早く僕が言いたいことに気付いたのはメイリン。説明しようとしていたことも代弁してくれた。
「多分、そうだと思う。
「なるほど……じゃが、その話は
「あちらも中々手が回っていなかったようです。仕事の依頼も溢れていました。ディグドッグはこちらから手を出さない限りは縄張りを作るだけの魔獣ですから、気にしていなかったんでしょう」
「はい。ですから、急ぎ兵や
国内の事情は分からないので一部はメイリンに話を任せ、僕が出した結論だけを述べる。原因がディグドッグであることは、周囲の反応を見てもあながち間違っていないだろうし、あとはどう対処をするか、だけだ。
「よし、分かった。城内の兵を出そう!
「ルシリウス……お主は現金なやつじゃのう。しかし、それが最善じゃろうな。魔獣の存在を感知する
王様とダリウスさんの言葉で話がまとまりかけた時、バンと扉が開く音がした。
「――そういうことなら、この私も手を貸さない訳にはいかないな!」
「マークス、てめえ……どの面さげて戻ってきやがった」
「なんのことだい、ゼスト・ジラールくん。なに、王国に再び危険が迫っている気配を感じてね!」
登場したのは、巨竜の出現に東へと逃げたはずのマークスさんだ。ゼストさんの言葉も意に介さないような表情をしていた。ここに来て中々の
「ちっ、まあいい……しかし、話が
「どちらが多くの魔獣を狩るか、勝負だな!」
「そのノリやめろ……頭が痛くなる……」
ゼストさんが本当に頭を押さえながらそう言うが、話はまとまった。その場は解散となり、その日のうちにディグドッグ討伐の準備に取りかかる軍――北から戻ってきた兵たちも、セレーネの民は完全に退却したようで、破壊された砦はそのままになっているということだったが、一部を戦線へと戻し残りはディグドッグ討伐に参加するということだ。
世界を救うにしては、意外とあっけない解決だったが、国が滅ぶよりはよっぽどいい。僕もディグドッグ狩りに参加するべきかと思ったけど、あの巨竜――スィスモスに話相手になってくれと頼まれたことを思い出した。どうするべきかダリウスさんに相談したら、『儂も連れて行ってくれ!』と懇願されたので、魔獣狩りは諦めよう。
そうして国を上げての魔獣狩りが始まる。
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