第56話 敵軍の襲来
明朝、僕はメイリンと共に万全の準備をして、城壁の上で北方面の様子を見ていた。
周囲では弓矢や投石を慌ただしく準備する兵たち、北方面に出る城門の周辺で待機する兵たち、それに何かの魔法陣の準備をする魔術師風の人たち、とそれぞれに戦いの時を待っていた。
メイリンに聞いたところ、大規模な攻撃を仕掛けるための魔法陣を準備しているらしく、僕には直接関係ないからと詳しく教えてもらえなかった。この世界には魔術というものがある。きっと戦争の仕方も、また違うのだろう。
「見えたぞ、あれは――友軍だ!」
見張りの兵が声を上げる。
北の方を見ると、城門から真っ直ぐ北へと続く街道のかなり遠方の方に、軍と思わしき塊がこちらに向かっているのが見えた。北の戦線から引き戻された軍、なのだろう。敵が迫っている時だが、味方の無事の到着に周囲の兵たちも沸き立つ。
北へとまっすぐ続く街道、その横には以前僕が
「タケル、ビビってるのか?」
「馬鹿言わないでよ。流石の僕も、もう覚悟は決まったよ」
「――そりゃ、いい」
懐の中からスライも声をかけてくる。
刻一刻と迫る戦いの空気に、ビビっていないかと言われたらビビっていると答えたい気持ちだけど、せめてそうではないと言葉にしたい。
「なんだか北の方からかなりの――というかあり得ない程デカい魔力を感じるな。これが敵の軍勢なのか? もしこんな魔力の敵が相手だとしたら、勝ち目はないが……」
「ちょっとスライ、変なこと言わないでよ」
「あ、ああ。悪い。でも、これは――」
魔力に敏感だと言っていたスライが、物騒なことを言う。魔獣の軍勢が向かっているとは聞いていたけど、話にはそんなとんでもない――それこそゼストさんなんかも比にならないような魔獣がいるなんてことは聞いていない。スライもそれ以上は何も言わなかったので、きっと勘違いだろうと胸にしまうことにした。
北の方から向かってくる、この国――ローデンベルクの軍勢が段々と近づいてきている。遠くの方から徐々に近づいてくるその塊が城の近くまで進んでくるのには、かなりの時間がかかった。太陽は天頂にまで上り、正午というところだろう。
その軍勢が城まであと少しという所で、見張りの兵がまたも声を上げる。
「あれは……敵軍――大型の魔獣の大群です。その数……分かりません! かなりの数の敵がいます! その後ろ――魔獣のかなり後ろに、恐らくセレーネの民の軍勢と思わしき軍も見えます!」
来た。
本命――と言うのも不謹慎だが、敵の軍勢がようやく姿を現した。
味方の軍がもう少しで城に着くというところだが、それに追い付かんとするように向かってくる敵軍に、敵方の本気度合いを感じる。しかも魔獣の軍勢を追い立てるようにして進軍しているのだから、完全にこの城を落とすつもりなんだろう。見張りの声が上がった瞬間、城壁の上に立つ兵たちにもピリっとした緊張が走る。
敵の軍勢はまだ遠い。ここに到達するまで、まだ数刻はあるだろう。
「あれが軍勢? 遠くてよく見えないけど、かなりの数が……」
「ここに攻めてくるんだったら、戦うしかないわ。数の問題じゃない。魔獣の軍勢なんて、どんとこいよ」
「はははっ! メイリンも分かってるじゃねえか。喧嘩は派手な方がいい。魔獣も、北の奴らもまとめて蹴散らしてやるよ」
メイリンも、その奥にいるゼストさんも、もう覚悟は決まっているのか敵の到着を笑って待っている。その言い方にも、多少の虚勢を感じる。みんな迫る戦いの
敵の軍勢が真っ直ぐこちらに向かってくる中、ローデンベルクの軍が入城し、こちらに合流してくる。
「ただいま帰還しました! 敵、数は不明ですが魔獣、セレーネの軍共に、かなりの数です!」
城に戻った軍の、伝令が駆けつけて報告し、後から同じく駆けつけた隊長格のような格好をした人も同じように報告に上がっている。僕たちがそうしているように、北方面の様子を城壁の上から見ていた王様やダリウスさんがその報告を聞き、前情報と変わらないその内容に顔をしかめている。
「やはり敵軍はかなりの勢力か……砦も落ちたとなると……ううむ」
「ルシリウス、大丈夫じゃ。この城は落ちんよ。戻った兵を再配備し、すぐに守りの準備をしよう」
王様とダリウスさんは状況を鑑みながら、互いに言葉を交わし合っている。
まだ敵の軍勢は遠くに見えているくらいで、城に攻め入るまでには時間があるが、城壁の上に立つ周囲の兵たちも刻一刻と迫る敵を見てざわめき立つ。
「おらあっ! テメエら、ビビってんじゃねえぞ! 魔獣も北の奴らも俺がまとめてぶちのめしてやる! 俺についてこい!」
「やれやれ……暑苦しいねえ。そんな無骨な君と並び立つ私……きっといい絵に――」
「「「おおーーーーーっ!!!」」」
混乱が起きそうな雰囲気の中、ゼストさんの喝に兵たちが呼応する。
敵の数は多いが士気も悪くない。
「気合を入れろテメエら!
再度、兵を鼓舞しようとゼストさんが声を上げた瞬間、地面が沈み込むような感覚とドンと派手な音がした。僕たちが並びたつ城壁に何か異変が起きたのかと思ったが、その後に地鳴りのような音が続く。
「――地震!?」
誰かが発した声が聞こえたが、鳴り続ける地鳴りの音がする中、城壁が揺れる。
「や、山が…………」
誰かが、愕然と呟くような声を出す。
北に目を向けていた誰もが、地面が揺れ続けると共に、北西にあるスィスモス山が
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