第55話 星々に見守られて
明朝から戦いが始まるという、その夜。
戦いの準備作業が続く城内は騒がしく、慌ただしく動く兵たちばかりだった。そんな中で特に仕事もない僕は、また自室ではなくバルコニーで夜風に当たっていた。
「なんか……いよいよって感じだな」
「
同じように街の灯りを見ながら、スライと何でもない話をしている。確かに、
「思わず手を上げちゃったけど、僕に何かできるのかなあ」
「タケルも、もう十分戦力になるだろうよ」
「そうは言っても、今日の戦いもほとんど見てるだけだったしな……」
「そんなことないだろ。あの敵――かなり強いやつだったし、隊長殿を助けたのはタケルじゃないか」
スライが言っているのは、ゼストさんがレフに奇襲を受けた時のことだろう。あの時はとっさに前に出て剣を受け止めたものの、レフのあまりの力強さにそれ以降は何もできなかった。手も足も出ないというのは、あのことだ。助けたと言ってもやったことはそれだけで、結局はゼストさんなしではどうにもならなかった。
「また変なこと考えてるな。前にも言っただろ――」
「
「そうそう。分かってるんなら、そう後ろ向きになることもないだろ」
優しい言葉をかけてくれるスライだが、何とも
確かに僕ができる最善をしたんだろう。それは分かっているけど、戦いに参加できなかったのも事実だ。この世界に来て、戦うことを覚えて、周りの人も知って、ようやく僕も前に出て戦いたいという気持ちになったけど、それ故に
高望みだと言うスライの言葉は、勿論ちゃんと理解しているのだが。
「――またここにいたのね」
「メイリン……」
バルコニーの手すりにもたれかかって思い悩んでいると、この夜もメイリンがやってきた。偶然にしては出来すぎのような。
「休まなくていいの?」
「うん、今日は大して働いてないし……メイリンは――まだ休めなそうだね」
「ちょっと休憩にね」
見ると、まだ戦いの準備に追われているのか、メイリンは昼間に見た格好のままだった。皆が明日の戦いに向けて準備を進めているのに、こんな所で暇を持て余している僕は何なんだろうという気持ちにもなる。
「昨日もここに来てたけど……いつもここに来るの?」
「この季節は夜風も気持ちいいし、今は夜だから見えないけど、ここからだとトシラキア山がよく見えるから、お気に入りの場所なの。あ、山のこと言ったっけ?」
「前に聞いたよ」
「そっか。もう少ししたら山の木に赤や黄の色が付いて綺麗なのよ。今ももう、大分色付いてきたかしら」
「そう言えば、前にも言ってたね」
前に城下町を一緒に歩いた時に、そんな話をしてくれたことを思い出した。何だか慌ただしい毎日だったから随分昔に思えるけど、楽しそうに話していたことを思うと、きっと紅葉を見るのが好きなんだろう。
「ねえ、タケル――」
メイリンは一呼吸置いて、言葉を続ける。
「明日の戦いが終わったら――紅葉を見に、山に行かない? きっと戦いの後だったら休みも貰えるわ。すごく綺麗なの」
「紅葉か……うん、行くよ。楽しそう」
「ホント! じゃあ私が案内してあげる。お弁当も持っていかないと!」
戦いが終わったら故郷に戻って結婚する、という話でもないが、戦いの前夜にこんな話をするのは不穏な気もする。なんだろう、死んでしまうのか僕は。
そんな下らないことを考えてしまったが、無邪気に笑うメイリンは本心から喜んでいるようで、そんな姿を見た僕も笑ってしまう。
「約束よ?」
「うん、約束」
「明日の戦い――絶対勝たないとね」
「僕も頑張るよ」
笑い合う僕とメイリンの上には満天の星が輝いていた。
僕の星――
メイリンの笑顔を見て、そう心に決めた。
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