第54話 戦火の匂い
王様とダリウスさんが話をすると言って奥に消えていき、ゼストさんも中央広場での戦いが終わっているか、それと戦いの準備のために軍をまとめると言って去っていった。
広間には、またも僕とメイリンが残される。浮かない顔したメイリンだが、思い切って声をかける。
「メイリン、僕はどうしたら……」
僕の声に、思案中という顔をしていたメイリンがこちらを向く。すぐに返答はなく、何か少し考えているような表情の後、ぽつりぽつりと喋り始める。
「戦争が始まるのだから……正直言うと、タケルがこの戦いに巻き込まれる必要はないわ。国の危機を救うために喚び出したと言っても、ここからは軍と軍の戦いよ。この国の――ローデンベルクに直接関連のないタケルが、この戦いに――戦争に巻き込まれる必要はない。もし、タケルがこの国を去るというのなら、止めはしないわ――」
「うん、それはいいんだけど。何か僕にもできることはないかな?」
メイリンは僕に気遣ってくれているのか、言葉を選んでいるように言う。軍と軍のぶつかり合いなど想像もできないし、確かに僕一人がその戦場に加わった所で、何も変わらないだろう。そのためか、王様もダリウスさんもゼストさんも、僕に声をかけなかったのかも知れない。
それでも、この国のために喚び出された僕が、この国の危機に何かできるんじゃないかと思ってそう言うと、メイリンはキョトンとした表情の後、吹き出した。
「ぶっ……あっはは!」
「な、なんだよ。笑うなんて酷いよ」
「いや、ごめん……まさか
真面目に話していたつもりが、メイリンに笑われてしまった。僕の言葉はそんなに変だったんだろうか。しかし、気を取り直したように隊に加わるように言ってくれたので、その通りにしようと思った。
この世界にある、人の願いを叶えるという力――
「戦争よ? 後悔――しないわね?」
「どういうものかは分からないし、役に立つのかも分からないけど、僕にとってはこの世界に来てから毎日が戦争だったよ。甘く見てる訳じゃないけど、何かの役に立ちたい」
「そう……そうね。タケルは
「そ、そう言われると困っちゃうけど……」
「期待してるわよ、
そう言って笑いかけてくるメイリンは、いたずらっぽく片目を
普段見せない仕草に、思わずどきっとしてしまった。きっと戦いを前にして、変なテンションになっているだけだろう。きっと、そうだ。
広間でそんな会話をしていると、入り口の方からどやどやと大人数がこっちに向かってくる音が聞こえた。ゼストさんとマークスさんを先頭にして、兵たちも後に続く。恐らく、中央広場での戦いが終わったのだろう。
「おう、メイリン。タケル殿も。まだいたのか」
「ゼスト様……はい。あの、次の戦いですが……タケルを正式に私たちの隊に入れたいと思っています。まだ未熟ですが、私と並んで戦える程には――」
「何言ってんだ。当たり前だろ」
ゼストさんの反応に、僕もメイリンも目をぱちくりとさせてしまう。
「タケル殿はこの国の勇者だぞ、戦いに出んでどうする」
「ゼストくんとどっちが多く敵を倒すか競争しようって話をしていたんだ。君も勿論参加する――だろう?」
「え、えっと……」
目の前に立つゼストさんとマークスさんの二人は、次の戦いに僕が出るのは当たり前だというような反応を返してくる。正直人間離れしたこの二人に言葉をかけられると恐縮してしまうが、何だか悪い気がしない。
「精一杯、頑張らせていただきます……」
僕の言葉を聞き、二人は顔を見合わせ、そして笑った。
「がはは! その意気だぜ、タケル殿。なあに北の野郎どもなんて、蹴散らしてやるぜ」
「ゼストくんは一騎当千の猛者。それに私の
両側から二人に肩を叩かれ、潰されるかと思った。
これから城に敵軍が攻め込んでくるというのに随分余裕のある話だなとも思ったけど、この二人と一緒だったら何とかなりそうな気もする。横のメイリンも笑う。そうだ、僕の横にはいつもメイリンがいてくれる。何とかならないことなんか、きっとない。
ひとしきり笑った後、今度は本当に解散となった。
戦いは明日。
気を引き締め直して、僕も戦いに出よう。
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