第53話 侵攻開始

 広場ではセレーネの民であるレフが堕ち、周囲の魔獣もマークスさんが次々と倒しているため、戦いは終わりに向かっていた。

 そんな中、城から駆けつけた兵は三人。


「はあ……はあ……隊長、大変です!」

「北の軍勢か?」

「ど、どうしてそれを! ……ご存知なら説明は不要でしょう。陛下とダリウス様が呼んでいます。すぐにお戻り下さい」


 戦いを終え、見れば全身に火傷や裂傷を受けているゼストさんは、広場をぐるっと見回す。残りの魔獣はあとどれくらいかを確認しているんだろう。


「おう、マークス! 残りは任せるぞ!」

「ふっ、私の力をそんなに頼られてもね……だが君に貸しを作るのもいい――――」

「行くぞ」


 魔獣と戦いながらも喋っているマークスさんの言葉が終わらない中、ゼストさんは兵を促して城へと駆けていく。メイリンも共に行くようなので、僕もその後を追った。

 走りながらさっきの敵――レフの言葉を反芻はんすうするが、北の軍勢が王国に迫っているという話、もし本当だったら大事件だ。しかも慌ててこちらに向かってきた兵たちの様子を見ても、まさに今その状況になっているのかも知れない。


 敵軍が城に攻めてくる、つまり戦争・・だ。


「メイリン、敵の軍勢って本当に――」

「分からない。とにかくダリウス様のところに急ぎましょう。そこで全てが分かるわ」

「うん……」


 横を走るメイリンにも焦りが見える。

 レフ一人でもゼストさん程の強者でしか相手にならなかったのに、北から攻めてくる軍勢にそれ以上・・・・の敵がいたら、一体どうなってしまうんだろうか。いや、今はまだ攻め込まれるとも決まった訳じゃない。メイリンが言うように城へ急ごう。


 そう決めて城内へと駆け込むと、謁見の間の手前、広間になっている所にダリウスさんと王様がいた。


「ダリウス殿、一体何の騒ぎで――」

「ゼスト殿! よくぞ戻ってくれた、こちらに向かっている軍に出した伝令が……戻った。悪い報せを持って、な」

「うおおおおおお、ダリウスぅぅぅぅ! どうすればいいのだああああ!」


 青い顔をしたダリウスさんの横で、王様がわめき散らしている。予想通り――なのかは分からないが、場は混乱していた。


「陛下、落ち着いて下さい。ダリウス殿、詳しく教えてくれ」

「北の戦線が破られた。守りの人員が減った所を狙って、北の敵軍が――彼奴きゃつら一体どうやったのかは分からんが、大型の魔獣の群れを操って突破を図ったらしいんじゃ。砦が破られ、魔獣と共に敵軍がなだれ込んできていると聞く」

「破られた……くそっ! あいつの言葉は本当だったのか!」

「ゼスト殿、あいつ・・・とは?」


 ダリウスさんとゼストさんの会話。横で頭を抱えている王様は一旦置き、互いに情報交換をし合っている。ゼストさんは街の中央広場で戦ったセレーネの民――レフのことや明かした情報をそのまま伝える。


「まさかそんなことが……城下町での騒ぎは陽動で、こちらが戦力を戻すことを狙ってたのか……となると我々はまんまと――――」

「うおおおおおお、ダリウスぅぅぅぅ! その先は言わんでくれえええええ!」


 敵の策にまんまと乗ってしまった張本人の王様が、ダリウスさんの言葉を遮る。顔を押さえてもだえている姿は痛々しいが、明らかな失態なので気持ちは分かる。


「陛下、気を取り直して下さい……今はそんなことを言っている場合じゃないですぜ」

「うむ、ルシリウス。今は押し寄せる軍勢をどうするかを考えるんじゃ」

「お前たち…………」


 王様をフォローするゼストさんとダリウスさん。二人の言葉に目をうるうるとさせているが、ゼストさんは構わず話を続ける。


「それで、こっちに戻っている軍は?」

「うむ、それなんじゃが。今まさに敵の軍とそれが操る魔獣が、我が領土を侵攻しておる。斥候せっこうの話では脇目も振らず、真っ直ぐこの城に・・・・・・・・向かっている、ということじゃ。陽動に高位の戦士を使ったのを見ると、一気に攻め込むつもりじゃろう」

「なるほど……厄介だな。軍が追われているってことだと思うが、大丈夫なんで?」

「こちらに向かっている軍も、夜間行軍で急ぎ向かって――明朝には着くということじゃ。敵の足が予想以上に速いらしい」

「魔獣に追われてるんじゃなあ……」


 二人のやり取りを僕とメイリンは見ているだけだが、王様も口に手を当てたり眉間にしわを寄せたりと反応が忙しい。完全にパニクっているのだろうけど、昨日の強気な態度を思い出すと、何とも言えない。


「とにかく、敵を迎え撃つのは――」

この城・・・だろうな」

「うむ。帰還する軍を城に迎え入れ、抗戦の準備をする。大型の魔獣の群れも押し寄せているということじゃから、魔術師にも迎撃の準備が必要じゃ」

「ここが戦場――か。昔を思い出す……頼りにしてますぜ、王国の守護者・・・・・・・殿」

「……昔の話じゃ」


 ダリウスさん達はそれだけで話を終え、各自戦いの準備をするということなので解散になった。どうやら敵の軍勢が攻めてくるのは間違いないらしい。

 明日の朝、こちらに向かう友軍が到着するということなので、戦いはそれからだろう。


 元の世界でも勿論経験のない、戦争・・というものを初めて目にするという事実に、どんな顔をしていいのか分からなかった。

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