第51話 熱、戦
メイリンの呼びかけにより、敵の魔術による爆破を避けられた。
詠唱なしに魔術が使えるなんて反則技を今更ながら教えられ、目の前の男――レフがより危険な存在だと分かる。しかも相手の動きを止めたり、爆発を起こす魔術など、この世界に来てから初めて見るものだ。
「あーあー……それも避けるかよ。ローデンベルクの連中にも魔術に長けたやつがいるんだな。こりゃいよいよ
「アイツ、私たちを待ち構えてたわね……広場に
「それだけ向こうもギリギリなんだろ。こっちからしたらあの野郎さえ倒せば終わりなんだ。魔術はやっかいだ。一気にカタつけさえてもらうぜ」
落ち着きを取り戻したゼストさんが再びレフに向かって剣を構える。
「メイリン、また動きを止められたらマズいんじゃないの?」
「大丈夫よ。さっきのは私たちを待ち構えてたから使えたの。いくらセレーネの民とは言え、ノータイムであんな魔術は使えないわ。この広場を
「そ、そうなんだ。罠ってそういうことか」
どうやら、魔術と言っても万能ではないらしい。この状況なので詳しくは聞けないけど、話からすると恐らく発動の条件がある類なんだろう。ゼストさんも勿論それは分かっているのか、相対するレフとの間合いを慎重に詰めるように足を運んでいる。
「お前ら、かかってこないんだったら
距離を取った位置にいたレフがそう言い、片方の手を掲げる。
その掌の上に、何もない宙空から丸い塊が現れ、それが段々と大きくなっていく。
「ゼスト様――」
「おいおいマジかよ。あの野郎――
「ははっ、開幕だ。ド派手にいくぞ」
またも耳に馴染みのない単語をゼストさんが呟いたと思ったら、メイリンに襟首を掴まれ、横に無理やり移動させられる。何が起こったのかと見ると、ゼストさんも僕たちの反対側に展開するように、横に回避していた。
丸い塊を掲げた手の上の載せたレフが手を振ると、その弾がこちらに向かって飛んできた。メイリンたちが言っていた――炎弾という言葉から火の塊のようなものかと思ったが、違う。飛んできたのは燃えさかる岩で、まるで小型の隕石みたいだ。
僕たちがさっきまで立っていた石畳に着弾すると、轟音と共に爆発が起きる。かなり距離を取ったにも関わらず爆発による衝撃と熱風を体に感じた。広範囲で石畳が吹っ飛び露出した地面が、その威力を物語っている。
「なんて威力――アイツ、馬鹿なの?」
「てんめええええええ、おらああっっ!!」
単身で突っ込んでいったゼストさんが一気に間合いを詰めて剣を振るうが、劣らない速さで後ろに下がったり、片手に持った小ぶりの剣で受け流したりして、レフは攻撃をいなしている。傍から見てると暴風のように剣を振り回しているゼストさんだけど、対応できるレフもかなりの強さだということだ。
「炎弾使いを捨て駒たあ、お前ら随分と切羽詰まってるんだな。だが、お前たった一人で王国がどうにかなると思ってんのか。舐められたもんだな!」
「舐めちゃあいないさ――捨て駒ってのはご明察の通りだけどな」
二人は言葉を交わしながら互いに攻撃を続けている。お互い、それくらいの余裕は持っているのだろうが、僕には目の前の光景が天変地異か何かのように映ってしまう。
ゼストさんの攻撃を避けては間髪入れずに反撃を入れ、それを回避して距離を取るゼストさんに、さっき程の大きさではないが掌の上に作り出した炎弾をレフが投げつける。そんな攻防を繰り返し、広場には轟音が鳴り響き続け、辺りはもう滅茶苦茶だ。
「こんなの近寄りようが――メイリン!?」
二人の戦いを傍観するしかできず立ち尽くしていた僕だが、横にいたメイリンが戦闘の渦の方へと駆け出した。あんな所に割って入るなんて自殺行為に思えるが、僕がかけた声に応えることなく、足も止まらない。
「――
「メイリン、下がってろ! ――と言いたい所だが、でかした!」
二人が戦っている所からまだ距離はあるが、魔術と共に二本のナイフを投擲するメイリン。レフが見せた一瞬の静止を狙うかのように死角から投げられたナイフは両足に刺さり、その刺さった部分から足が凍っていくように見える。
足が完全に止まったレフに、ゼストさんが間髪入れずに襲いかかる。
「くっそ……こりゃやべえ――――訳がねえだろうがあああっ!」
「きゃあああっっ!」
両足に魔術が付与されたナイフを受け、ゼストさんに斬られるのを待つばかりに見えたレフだが、怒号と同時に全身が
逆に、その熱風を受けたメイリンが怯んでしまう。
横槍を物ともせず、戦い続ける二人の姿。
手を出したら文字通り火傷をするような状況に、僕は見ていることしかできない。
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