第49話 収束

 お城の謁見の間。

 翌朝、僕たちは改めてその場に集まっていた。昨日と同じ顔ぶれ。前情報もなく呼ばれただけの僕は今がどんな状況になっているのか分からない。ダリウスさんや他の面々も、神妙な面持ちで王様が広間に入ってくるのを待っているので、まだ決着はついていないのかも知れない。


みな、待たせたな」


 奥から王様が入ってくる。昨日は見るからに不機嫌そうな表情だったけど、今日の王様は少し落ち着いているように見える。


「楽にして聞いてくれ。昨晩、儂の方でも熟考した。みなが言うことも分かる。北の戦線についても、儂は口で言っているほど甘く見ている訳ではない」

「では――」

「しかしだ。今まさに王国に危機が迫っていることには変わりがない。パラサイトを持ち込んでいる不届き者も見つからんし、昨日などはとおを超える魔獣が街に出た。即時対処すべき、由々しき事態だ」


 横から口を挟むのは許さないという雰囲気の王様は、ゆっくりと言葉を続ける。昨日ダリウスさんたち皆で説得したということだったけど、話の内容から雲行きの怪しさを感じる。


「よって、国内の警備の強化としてゼストおよびマークスにそれぞれ隊を率いさせ、交代での街の警邏けいらおよび犯人の捜査にあたらせるものとする。片方は捜索、片方は城の守りだ。それにより伝令を出した北の戦線からの軍の引き戻しはしない・・・・・・・・・・ものとし、引き続き戦線を維持することとする」


 王様の言葉を並んで聞いている面々は驚きの表情を見せた。


「そ、それでは……」

「ああそうだ。昨日は儂も少し頭に血が上っておった。許せ」

「そんな陛下、勿体ないお言葉ですぜ……」

「勿体なくなどない。そなたらの言葉、胸に響いたわ。儂はいい家臣を持った」


 皆が王様の言葉を聞き入っている所で、ダリウスさんがよろよろと立ち上がった。


「ル、ルシリウス…………」


 名をつぶやき、そのまま王様のもとに向かうダリウスさん。


「どうした、ダリウス。まだ文句があるのか」

「文句など――ルシリウスゥゥーーーーーー!!」

「うわっ――なんだこのジジイ、頬をくっつけるな! 気持ち悪い!」

「お前なら分かってくれると思っとったぞぉーー!! うおおおぉぉーーん!!」

「ふんっ、別にお前が進言したからという訳でもないわい」


 獣のような叫びを上げて泣くダリウスさん。王様に抱きつき、いい齢のおじさんがわんわんと泣いている。絵面はあまりいいものではなかったけど、おとこ泣きをするダリウスさんを王様はちゃんと受け止めている。良かった。本当に良かった。


「――失礼します!!」


 そんな中でまたも謁見の間に一人の兵が報告のために入ってきた。

 王様とダリウスさんが抱き合っている絵に、若干驚いたような表情を見せるが、気を取り直したように報告を続ける。


「どうした」

「城下の魔獣の騒ぎ・・・・・ですが、先日の魔獣出現の際に怪しい人物を見たとの情報が! その前の魔獣騒ぎの際にも同様の人物が確認されているようで、間違いない・・・・・かと!」


 兵士が持ってきた報告は、恐らく魔獣を街中に持ち込んだ犯人のものだろう。

 ダリウスさんもすぐに泣き止み兵の報告を聞いている。


「ほほう……これはようやくこちらに運が回ってきたか」

「陛下、すぐに出ますぜ」

「私も参りましょう」

「魔獣騒ぎはそなたらに任せた。儂は軍を戻すよう伝令を出そう」

「「はっ!!」」


 王様が戦線から軍を呼び戻すことをやめてくれた喜びの上、恐らくこれは吉報だろう。犯人を捕まえて王国内での騒ぎを鎮めることができれば、全てが解決だ。意気込んだ様子のゼストさんは報告を持ってきた兵にすぐに近衛隊を集めるように指示を出している。全てが同じ方向に向かって前に進んでいるようだ。


「タケル殿、メイリン、一緒に出るぞ。装備を整えて城門に集合だ。いいな?」

「承知しました、ゼスト様!」

「はっ、はい!」


 前の戦闘での失態をものともしないように、ゼストさんから声がかかる。

 横ではメイリンが少し微笑んでこっちを見ると、すぐに準備に取り掛かるように広間から出ていった。僕もそれに続き、装備を整えるために自室に戻る。


「やったなタケル、ここで汚名返上すればいい」

「そうだね!」


 部屋で鎧や剣を身に着けているとスライもそう言ってくれた。

 きっとまた戦いになるだろうけど、この戦いでちゃんと活躍すればいい。

 急いで城門に向かうと、すでに数十人の兵たちが集合している所だった。ゼストさんもマークスさんもメイリンも準備万端という様子だ。


「よし揃ったな。急ぐぞ、行くぞテメエら!!」

「「「はいっ!!」」」


 ゼストさんの一声で隊が駆け足で移動を始める。僕はゼストさんのすぐ後ろをメイリンと一緒に走っていた。謁見の間に報告にきた兵が先導し、城下町の中央広場の方に向かっていく。


「あ、あれは……何でこんなところに――――隊長、あの者です! 中央広場の真ん中にいる……」

「なんだあ? あんなところに堂々と……開き直ったってか?」


 見ると、中央広場のその中心に、全身を包むようなローブを纏った人物がいる。

 フードを被っているのでその表情は見えないが、こちらを待ち構えるように広場の中央に仁王立ちしている。その風貌の怪しさからか、広場にも人の数は少なく、人々が遠巻きにしてその人物を見ているようだった。


「そこのお前っ! 動くなよ! フードを取れ!」


 兵たちが中央の人物を囲むように展開する。大人数に取り囲まれてもなお、その人物には焦った様子がなく怪しさが増す。

 そんな中、かけられた声に応じるようにゆっくりとフードを上げて顔を見せた。


「ふー。ゼストに、マークスか。お前らのことはよーーく知ってるよ。こりゃ俺の命運も尽きたかな。だが――」


 フードを外したその人物は、褐色の肌を持つ男だった。こんな状況にも関わらず、口にした言葉に反してニヤリと笑う。


「俺たちの勝ちだな」


 不敵な態度で意味の分からない言葉を呟く男。

 その人物が次に何を言うのかを待つように、周囲の兵たちは口を閉ざしていた。

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