第46話 王様の判断
僕たちは王様と話すために、謁見の間に来ていた。
仰々しいやり取りは省略され、玉座に座る王様、横にダリウスさん立っている。
マークスさんもいることなので、一応形式的な格好にするということで、王様を正面にし、左からマークスさん、ゼストさん、メイリン、僕、の順番に膝を床について控えていた。
「よくぞ戻ってくれたマークス殿。陛下、マークス殿は
「ふむ」
ダリウスさんはマークスさんの帰還を心から喜んでいるようだが、王様の表情は明るくない。聞くとマークスさんは、騎士という称号を得ながら土地を治める領主にはならず、各地の魔獣を倒して回っているということだ。そんな自由な身分があり得るのかと思ったのだが、マークスさんが数々の戦いで立てた功績は大きく、気を良くした王様が『一つだけ何でも願いを叶えてやる』と言ったところ、こうなったそうだ。
「事態が事態じゃ。マークス殿、この度は王国に常駐してくれるのじゃろう?」
「ダリウス殿、勿論です。このような事態の時に王国に戻ったのも偶然ではないでしょう。王国を守る騎士として、『華の騎士』の名に恥じない働きをいたしましょう」
「流石はマークス殿じゃ。陛下、これで北の戦線から兵を割かなくても大丈夫でしょう。あの、陛下……どうかしましたか?」
マークスさんの力強い言葉に、ダリウスさんは興奮しきっている。頻発する王国内での魔獣騒ぎにより、問題となっていた国防の問題が解決するからだ。反面、王様からの言葉はない。そんな王様がゆっくりと口を開いた。
「ふむ……マークス、よくぞ戻ってくれた」
「はっ」
「王国の危機だ。奮ってくれ」
「はっ、このマークス。我が祖国――ローデンベルクのために身命を捧げる所存。私に任せていただければ、王国内に出る魔獣など物の数ではありません」
「頼んだぞ」
マークスさんがハキハキと喋るせいもあってか、王様のトーンはやはり低く感じる。横にいるダリウスさんや、ゼストさんまでもがその反応に困惑しているようだ。
「あの、陛下……ルシリウス? なんじゃ、その反応は。マークス殿が戻ってきてくれたのだ。喜ぶところじゃろう、ここは」
「まあ別に王国の守りはもう問題なかったしな……」
「ん? なんじゃって――」
「失礼します!!」
ダリウスさんの口調が怪しくなってきた時、謁見の間の扉が勢いよく開かれ、一人の兵士が駆け込んできた。謁見中に割って入ってくるということは、相当急な用件なんだろう。
「北の国境より、精鋭の兵五千。こちらに向かって出立したとのことです! 急ぎ向かっておりますので
「なんじゃと?」
報告だけを残し、兵士は謁見の間を出ていった。広間は静まり、何を言っているのだというような顔をしたダリウスさんがぽつりと呟く。
「ルシリウス、これは一体どういうこと――」
「だから言っただろう。守りはもう問題ないと」
「北の戦線から兵を呼び戻した、ということか?
「言わなかったからな」
あっさりと言ってのけた王様の言葉に、ダリウスさんはぽかんと口を開けて固まってしまった。五千の兵と言っていた気がするが、そんなに大きな戦力なんだろうか。
どういう状況なのか分からないので周囲を見ると、ゼストさんやメイリンさんは王様たちの様子を固唾を飲んで見守り、マークスさんは顔を下に向けてしまっている。そんな中で、ダリウスさんが口を開く。
「お…………お前はどこまでアホなんじゃ、ルシリウスゥゥゥゥゥ!!」
「言葉を慎め、ダリウス」
「何を言うか! 今すぐに軍を戦線に戻せ! このバカモンが!」
「んなもん無理に決まっておろうが! もうこちらに戻って来ていると言っていたのを聞いておらんかったのか!」
「ルシリウス……お前は北の戦線から兵は戻さんと約束を――」
「アホはお前のほうだ!! 儂は言っただろうが!!」
激昂するダリウスさんに、最初は大人しく受け答えをしていた王様が、ついにというように声を張り上げた。
「何を――」
「だから、前に言っただろう!! 魔獣がこの城の敷地に一歩でも踏み込んだら、その瞬間に軍を呼び戻すと!! 先程の魔獣の騒ぎで、儂は見たぞ!! 魔獣が
喚く王様の言葉を聞いて、はっとなった。
王様が言っているのは、僕が相手をしていた馬面の魔獣のことだ。魔獣と戦っている時、急に襲い掛かってきた魔獣の攻撃に怯んで追い詰められ、確かに城門内まで後退してしまっていた。
王様の言葉に、その場にいる全員の顔が青くなる。
「そん、な……」
「すぐに伝令の鳥を飛ばしてやったわ!! ダリウス、お前もそのことは了承したはずだろう!!」
王様の言葉に言い返すことのできないダリウスさんは項垂れてしまう。
「なに、北の戦線は大丈夫だろう。軍を戻したと言っても、三分の一程度だ。北の戦地での戦いも大した規模ではない。それよりまずは王国の平穏を取り戻すことが先決だ。もうお前が何を言っても変わらんぞ。儂はもう戻る」
それだけを言って王様は玉座から立ち上がり、奥へと引っ込んでしまう。
残された僕たちは言葉もなく、それぞれに事実を噛みしめるだけだった。
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