星の勇者さま

第41話 再挑戦《リベンジ》

　敵に向かう最中で足を止めてしまった僕は、メイリンの姿をぽかんと見ていた。

　そんなメイリンがこちらを振り返って叫ぶ。

「タケル、何止まってるのよ！　そっちの敵を叩きなさい！」

「いや、だって……一撃で倒せるんだったらメイリン一人でやったほうが……」

「さっきのは不意を突いた（・・・・・・）だけよ！　次はそうはいかないわ！」

　そんな訳はないだろうとは思ったが、メイリンは残った敵の片割れに向かっていく。確かにさっきのように一撃とはいかないが、両手両脚で敵に殴る蹴るの暴行を加えるメイリンは圧倒しているように見える。というか脚を使ってるじゃないか。拳（ナックル）とは何だったんだ。

　またも意識をそっちに持ってかれそうになったが、城門を出てすぐの所、敵の近くまで寄ってしまっていた僕に気づき、馬面の魔獣がこちらに向かってくる。

「オオオオオオォォオオ！！」

「――うわっ！　このっ！　やっぱっ！　怖いっ！」

　あっという間に距離を詰められ、蹄（ひづめ）のような拳で僕に殴りかかってくる魔獣。

　メイリンの魔術により強化された僕は、その攻撃を多少の余裕を残して避けることができているが、目の前で打ち付けられた敵の攻撃で地面がえぐれているのを見て、ぞっとする。

　後退しつつ何度かの攻撃を避けていると、城門の内側（・・・・・）まで追い詰められてしまった。これはまずいと思い、打ち下ろされる蹄を真正面から剣で受け、空いた魔獣のどてっ腹に蹴りをいれた。その衝撃でなんとか押し返す。メイリンの魔術の強化は絶大で、ちょっとまずいかと思いながら受けた魔獣の攻撃を、受け止めることも、そこから押し返すこともできた。

「僕だってやってやるよ！　ああああっ！」

　敵の攻撃を何とか見切ることができているが、それは敵も同じだった。

　反撃とばかりに今度は僕の方が攻勢に出たものの、渾身で繰り出す斬りと突きは後退する魔獣に紙一重で避けられてしまっている。これまで戦った魔獣と違い、攻撃の圧も動きの速さも段違いだ。

「うおお、俺達だって！！」

「やってやる、やってやるよ！！」

「いくぞ、うおおおおおお――――うわあああああっっ！」

　僕が押し返した魔獣に、周囲の兵たちも群がっていった。

　がむしゃらの攻撃で乱れた息を整えようと、一旦足を止めてその攻防を見るが、数人の兵が魔獣にはたかれるようにして地面を転がる。以前も見たような光景だが、なんとも頼りない。まあ僕自身もメイリンに強化して貰わなければ似たようなものだろうけど。

「大変です、街の中心の方にも魔獣が――――大量に！」

「なんですって！　ちょっとアンタたち早くそいつを殺（や）りなさいよ！」

　メイリンが相手取っている魔獣は、一方的な攻撃によりボロボロにされており、あとひと押しで倒れそうな様相だった。メイリンの猛攻を必死で防ぐその姿は、魔獣と分かっていても少し同情してしまいそうになる。

　いや、そんなこと考えている場合じゃない。早く僕も目の前の敵を倒さないと、次にボコボコにされるのは僕になるかも知れない。

「どいてくれっ！　僕がやるっ！」

　魔獣からの追撃を受けそうになる兵たちを押しのけ、敵の懐へと飛び込む。

　注意が他に向いていた魔獣へと一気に詰めより、素早い敵に避けられないよう最短の攻撃――突きを見舞った。敵の腹を削り取るように捉えた僕の剣だったが、手応えからして致命傷にはなっていない。すんでの所で、身をよじって避けられたようだ。

「グオオオオオォォオオ！！」

「くそっ、前の僕と同じだと思うなよっ！」

　憤怒の叫びで僕に打ち掛かってくる魔獣。

　以前の戦いで一撃で僕をふっ飛ばしたのとは違う敵と分かっていながらも、同じ姿形をした敵の蹄のような拳を見て叫ぶ。以前とは違う。その動きも今は見えている。

　リーチの長い敵だが、内側に潜ってしまえばその分僕の方が有利だ。少しかがむようにして攻撃の軌道から外れるようにして動くと、さっき削り取った敵の腹の真ん中（・・・・・）、そこを目掛けて全体重で押し込むようにして剣を突き刺した。

「ガッ……ガアアアッ！」

「うおおおおおっ！」

　僕の剣は敵を貫いたが、馬面の魔獣は最後の力で僕を殴り倒そうと、蹄のついた足を振り上げる。やられてたまるかと踏ん張り、剣を振り上げるようにして、敵を真っ二つに割いた（・・・）。上半身を分断され、霧散する魔獣。

　開けた視界の奥で、メイリンが殴り倒した魔獣が同じように霧散するのが見えた。

「タケルさんがやったぞ！」

「さすが……さすがメイリンさんの魔術（・・・・・・・・・）！！」

「すごい、すごいぞ！　メイリンさんの魔術（・・・・・・・・・）！！」

「いや、僕も頑張ったから！！」

　城門外の魔獣を倒し、盛り上がる兵たち。なんだか失礼な物言いだ。

「まだよ、街の中心の方に出た魔獣を倒すわよ！」

「はっ、はいっ！」

　つかの間の勝利を喜ぶ間もなく、街の中心の方に駆け出すメイリン。

　その姿を追いながらも、以前はなすすべもなくやられた魔獣を自らの手で倒した実感を手の中に感じていた。