第40話 ステゴロ
目を覚ますと、部屋の外――城の廊下で多数の人間が右往左往する音が聞こえた。
「おいタケル、いい加減起きろ! なんかやばそうだぞ!」
身を起こそうとするとスライも騒動に気付いているのか、僕に声をかけてきた。
「うーん……スライ? 一体何の騒ぎ?」
「知らねえよ、いいから起きろって」
「分かったよ……ダリウスさんの所にでも行った方がいいのかなあ――」
「タケル、何やってるの! 早く準備をしなさい!」
ベッドから這い出て寝間着から普段着に着替えていると、僕の部屋の扉が乱暴に開き、メイリンが入ってきた。完全に着替え中だったのだが、僕がパンツ一枚であることも気にしていない。
「一体、何があったの?」
「魔獣が街に出たのよ! 早く支度して私たちも行くわよ――ほら、鎧も付ける!」
「え、魔獣……? もしかして、この前街で見たのと……」
「同じやつよ、もう兵を向かわしているけど、ゼスト様が見つからないの。私たちも戦力にならないとまずいわ!」
僕が着替え、鎧や剣を身につけるのを『早くしろ』とメイリンが煽ってくる。
昨日王国に戻ってきた時も、魔獣が街中に出たと話していたが、それを考えるとこれで三度目だ。王国内に魔獣が出ること自体が異常というように言っていたが、この頻度で魔獣が出現しているとなると、いよいよ緊急事態なんだろう。メイリンの表情にも緊迫感がある。
「分かったけど……僕が行って役に立つのかな」
「何言ってるのよ、散々魔獣と戦ってきたじゃない。私の魔術で強化もするわ」
今までの訓練目的の魔獣との戦いではなく、戦力として数えられているようで嬉しかった。勿論、僕一人では自身を強化するだけで手一杯なので、大した戦力ではないが、この前の
「支度はできたわね、行くわよ!」
「行くって、どこに?」
「城門の
「え、そんな近くに……?」
話しながら、メイリンはすでに走り始めていた。
街中のどこに魔獣が出たのかと思いきや、城の建物のすぐ外だと言う。これは思っているよりマズいんじゃないだろうか。
僕とメイリンは走って城門の外へと向かうと、すぐに戦闘の音が聞こえてくる。
そこでは既に十人ほどの兵士と、この前街で見た馬面の魔物
「まずいわね。タケル、強化の魔術を使って。私も魔術をかけるから」
「うん、分かった」
「悪いけどかけられるのは
「ヤバいと思ったら退け、ね。分かってるよ」
「……十分よ」
魔獣の方に向かいながら詠唱する。未だに僕の詠唱はゆっくりとしたものだ。
「「――
僕とメイリンが同時に魔術を唱える。そのままメイリンは次の詠唱へと入る。
「――
メイリンが唱えた魔術により、僕の体に淡い光が宿る。横を見るとメイリンにも同様の効果が現れているようだった。重ねがけできる強化の魔術は自分にも使えるんだ、とか思ったが今は聞いている暇はなさそうだ。魔術の効果により一気に全身が強化されるのが分かり、メイリンと並走しながら魔獣を見据えて剣を構える。
「タケル、
「え、アイツを僕だけで相手するの?」
「……いいわね?」
「分かったよ……」
メイリンの合図により、僕は左にいる魔獣、メイリンは右の魔獣に向かっていく。本気の戦闘モードに入るメイリンを見るのは初めてだが、今日も帯刀している剣を抜くことはせず、その手は空のままだ。ただ両手に、いつもは見たことがない指だしグローブのような手甲を付けている。革製のような質感のそれは、指の付け根と甲の部分だけが金属のようなもので覆われている。
魔獣に向かう最中、メイリンが更に詠唱を始めるのが見えた。
「――
なんとも世紀末的な名前の魔術を唱えたメイリンは、僕より一足先に魔獣へと飛び込んでいき、振りかぶった拳で敵を
「め、メイリンさんが手甲を……!」
「一撃……」
「ヤベえ。メイリンさん、
城門近くで魔獣の相手をしていた兵たちがメイリンの登場に盛り上がる。
拳の一撃で敵を屠ったメイリンの姿、その周囲で兵たちが騒ぐ光景を見て、僕は足を止めてしまった。キャッキャッとはしゃぐ兵たちの姿に、この国はやっぱりダメなのかも知れない、と思ってしまう。
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