第38話 帰路

「や、やった……?」

「タケル、やったな! すげーよお前、メイリンの補助があったとは言え――」

「一言余計なんだよ……」


 渾身の力で叩きつけるように振り下ろした僕の剣は、魔獣を両断した。直前にメイリンが何かの魔術をかけてくれたのは分かったが、恐らく攻撃の威力を増幅させるようなものだろう。その恩恵もあって魔獣を倒せたのだが、たった一撃・・だ。その力の強大さに、自分がやったこととは言え、ぶるっとくる。


「……良かったわよ、タケル」

「最後のやつ、メイリンが魔術をかけてくれたんだよね。ありがとう」

「本当は自力で倒してもらいたかったんだけど、かなり固い・・やつだったから、思わず援護しちゃったわ」

「じ、自力かあ……」

「でも動きは本当に良かったわ。予想以上に強い魔獣だったし、一撃に重みがないのはタケルの今の力や、強化の魔術を一つしか使えないことを考えると仕方ないわ。でもそこまでの動きは本当に良かった……隊の仲間と戦っているみたいだったわ」


 メイリンの口からは意外な言葉が出る。

 魔獣に挑む前も、強化と防御の二つの魔術を、トドメを刺す際にもまた別の魔術をかけてもらった。てっきりはなから自力で倒せと言われたのかと思っていたので、褒められて嬉しいというより意外な展開に何と返せばいいのか分からなかった。


「アンタら……勝手にアタイの獲物を……」


 僕とメイリンのやり取りに戦いから距離を取っていた狩人ハンターの女――カレンという名だったか、その女の人が声をかけてきた。結果的に僕が戦っていた魔獣を奪ったせいか、カレンさんはこちらを睨みつけている。前に僕が助けられた時と真逆の状況だ。メイリンもカレンさんの態度が気に入らないのか睨み返している。


「なんてな、冗談だ……正直あの魔獣はアタイ達ではどうにもなんなかった。コイツらもこんなだらしない・・・・・姿になっちまってるしな。アンタ――名前は……タケルって言ったかい? アンタが割って入ってくれなかったらアタイを含めて全員おっ死んじまってたろう」


 てっきり手柄を横取りしたことに詰め寄られるかと思いきや、カレンさんは軽く笑いながら謝った後、素直に感謝の言葉を口にする。その言葉を聞いて、メイリンの目からも警戒の色がなくなるのが分かった。


「そう……」

「さっきはすまなかったな。そんなに腕が立つとは知らなかったから、おせっかいをしちまったかな。それなのに逆に助けられちまって、ざまあねえな……」

「そんなことは……さっきは本当にちょっと危なかったですから、助かりました」

「そう言ってもらえると助かるわ。しかし、近衛隊ってのはマジですげえんだなあ」


 手放しに褒めるカレンさんに、メイリンは少し気まずそうにしている。


「僕は国の兵じゃないです。近衛隊なのはこっちの――メイリンだけで」

「まあ、そうだろうなあ。雑魚の魔獣に手こずってたし。しかし、後ろの姉ちゃんに魔術で強化してもらったんだろうけど、アンタ――タケルも動きは良かったぜ」

「本当ですか?」

「ああ、自力であそこまで戦えるようになったら相当なもんだろうよ」

「自力で……精進します……」


 周囲には魔獣の気配もなかったため、カレンさんとはそれだけのやり取りをして別れることにした。僕たちは目的の魔獣の親玉を倒したので、森にはもう用はなく、カレンさんの方は横でノビ・・ている仲間の意識が戻るのを待つという。一緒に森を出ようかとも言ったのだが、『そこまで世話にはなれない』ということだ。


組合ギルドに戻るんだろ?」

「ええ、もう依頼は終わったしそうするつもり」

「そっか。アタイらの方はちょっと仕事は延びると思うけど、規定数の魔獣を倒したら戻る。もし向こうで会ったら、改めてお礼させてくれよ」

「いえ、お気になさらず――」

「こっちが気にすんだよ! まあ文句言わずに酒でも奢らせてくれ。それじゃあな」

「私はお酒は……」


 すっかり気を良くしたカレンさんと別れ、僕たちは村に戻った。

 そのままの足で村長に魔獣の親玉を倒したことを報告すると予想通り驚いていたが、依頼が完了したことは分かってもらえたので、簡単な挨拶だけをした後、宿の荷物をまとめてお城へと戻る支度をした。まだ日が傾いてもいないため、急ぎ足で戻れば今日中に着くだろうというメイリンの判断だ。


 初めてお城から離れた所での組合ギルドの依頼を受けたものの、村に滞在したのは一晩だけと、やけにあっさりと仕事が終わってしまった。いや、何日も植物の魔獣相手に戦わされるのも結構しんどそうなので、その点は良かったのだが何ともあっさりとしている。


「さて、戻りましょうか」

「随分とあっさり終わっちゃったね」

「あらまだ戦い足りなかった? 別に依頼分以上の仕事をしちゃいけないなんてことはないから、まだ村に残って魔獣狩りをしてもいいんだけど」

「いや、いやいやいやもうお腹いっぱいです!」

「実際、タケルも力を付けてきたし、ここの雑魚魔獣を倒していても仕方ないしね」


 なんとなくメイリンに褒められたような気がしたが、藪蛇やぶへびにならないようにそれ以上は何も言わないことにした。

 帰りの道を歩いている間、『次はもっとレベルの高い訓練が必要ね』と言って笑うメイリンの顔を見て、僕は何とも言えない気分になっていた。

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