第35話 チームワーク
「タケル、奥にもいるわ!」
「分かってる! たああああああっ!」
休憩の後、森の更に奥へと進んでいった僕たちは複数の植物の魔獣がいる所に出てしまった。これくらいの数であれば大した問題ではないとメイリンが言い、その指示のもと魔獣と戦っていた。視界に入っているものだけでも、四体の魔獣がいる。
さすがにメイリンもこれには僕一人で戦うのは難しいと考えたのか、トドメを刺さないまでも片側の敵の注意を引き、攻撃を分散してくれている。
最も手前にいた魔獣を一刀で断ち、メイリンと位置を入れ替わるようにして次に近い敵へと向かっていく。体を休めたので体力も魔力も十分、体が軽い。
「メイリン、そっちのを
「分かったわ、気をつけなさいよ」
場所を交代しようと声をかけると、すっと横に移動したメイリンを捉えようと触手で追っていた敵に対して、横からの攻撃となる一閃をもって、断ち切る。
「ヒュー、息もピッタリだな。やっぱりいい感じじゃねえか」
「ちょっとスライ、何もしないんだから黙っててよ!」
乗りに乗ったような僕の動きに、スライからも野次が飛ぶ。
そんなことは気にせず、霧散した敵の奥にいた別の個体に向かっていく。猛進する僕に、背の低い草木のような見た目の魔獣が口を大きく開いて威嚇してくる。魔獣の見た目にも慣れてきた。僕に迫ってくる触手を剣で受け流すようにして前に進み、中心に狙いを定めて
残る魔獣は一体。
さっき入れ替わったメイリンがそちらの方の魔獣の注意を引くように動いており、敵もその動きを追っている。すぐに、その間を割るように走っていき、メイリンを追って伸び切った触手を根本から叩き切り、間近で口を開いて威嚇する魔獣の
「ふぅ……これで全部かな」
「タケル、まだいるぞ――――上だ」
全ての魔獣を片付けたと思い、
スライの声で、振り返って上を見ると、高い木の枝にくっつくようにして存在していた魔獣が下方へと
ヤバい――と思った。
魔獣の危険度は身をもって知っているが、暗い森の中、美少女に迫る怪物の触手という絵面に、なんというか命の危険とは違う危なさを感じた。この世界に来る前にも、そんな感じのネタを見たことがある。いや、ネタとか言ってる場合じゃない。
「メイリン、危ないっ! 上に魔獣がいる――」
「――
メイリンの貞操――もとい命の危機に慌てて声をかけるが、その声がかけ終わる前に、メイリンが上方へと小刀を投げた。振り返ることもしておらず、魔獣の姿も見ずの行動だ。
「ギ、ギギィィィ……」
体を凍りつかせて、小さな断末魔をあげながらはらはらと崩れていく魔獣。
伸ばしていた触手はメイリンの体に触れることも叶わず、地面へと落ち、そして霧散する。その姿を見て、僕の頭の片隅にあったピンク色の妄想――もとい想像も、同時に崩れていった。
「私が魔獣の存在に気づかないわけないでしょう」
「で、ですよねー」
「全く、あんな高い所にいるなんて迷惑な魔獣ね。ナイフの回収が面倒じゃない」
魔獣から攻撃を受けそうになったことではなく、自分が投げた小刀の回収の手間に文句を言うメイリン。木の高い所にある太い枝に突き刺さった小刀を、腰に手をあてながら見上げている。
「――
小さくつぶやいた詠唱の後、魔術のような単語をメイリンが発する。
枝に刺さっていた小刀がその声の後、ぽとりと地面に落ちてきた。
「……今のも魔術?」
「そうよ」
「どんな魔術? まさか遠くのものが動かせるとか、そういうやつ……?」
「まあ、そんなとこね。魔力を結構消費するからあんまり使いたくないんだけど」
「マジっすか」
魔術なんてものが存在するので、何でもアリな世界とは思っていたが、まさか遠くのものを動かせるような魔術が存在するとは思わなかった。なんというか、使いようによっては反則のようにも思える。
「一応説明しとくと、使い馴染んだ道具――いつも使ってる私のナイフとかしか動かせないからね。それに、魔力量消費が大きいから戦闘で使うような人はほとんどいないわよ」
「で、ですよねー」
一応、ルールのようなものがあったので安心した。
なんでも動かせるとかだったら、敵の急所を遠くから潰すとかできそうだなとか思ってしまったので、流石にそんな反則技はないようで良かった。
「さあ、改めて魔獣討伐よ」
「ええー、まだやるの……」
いつものディグドッグ討伐よりスパルタな感じのメイリンは、何故か満面な笑顔で拳なんかを
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