第四章 ギルドの仕事

第30話 プチ遠征

「いやあ、狩人ハンターさん。こんな所まで来てくださって、どうもすんません」


 僕たちはディグドッグ討伐を終えた次の日、城を出て半日ほど歩いた所にある村、そこで村長と名乗るおじいさんから挨拶を受けていた。メイリンが話しているので、僕はそれを眺めているだけだ。


「仕事なので……それに私は国の兵なので、正確には狩人ハンターではありません」

「兵隊さんでしたか、若くてお綺麗なんで気づきませんで、どうも。他の狩人ハンターの方々も何人か来られていますが、宿には空きがありますんでどうぞお好きな所に。こちらで宿の案内をつけますんで」

「それはどうも。明日から森に潜りますけど、何か気になるところはありますか?」

「私ら魔獣が出てから森には入らないことにしてるんで……すんませんが、実際に見てもらった方が……」

「分かりました。それじゃ、仕事を終えたら報告にきます」


 城からそう遠くない村だったが、村長さんは田舎のおじいさんという感じだ。

 この世界において狩人ハンターがどれくらいの扱いなのかは分からないが、村長さんの態度からすると、魔獣討伐をしてくれるのでそれなりの立場なんだろうか。依頼を出しているのに、宿の手配はこっち任せなんだなとか思ってしまう。それに他の狩人ハンターも来ていると言っていた。ディグドッグ討伐が相当人気なかったことも薄々と分かる。


 村長さんが紹介してくれた村の人が宿に案内してくれる。

 さほど大きい村ではないが、城を出てからは比較的ちゃんとした街道を進んできて、その街道沿いにある村だ。宿も何個かあるようなので、街道沿いの宿場町というような要素もあるのかも知れない。


「部屋を二つお願い」


 メイリンは適当に決めた宿に入り、主人のおじさんに部屋の準備を頼んでいる。

 まあ流石に別の部屋だよな、とか思ってそれを見ていたのだが、何でもかんでもメイリンがやってくれるのでちょっと申し訳なくも思っていた。


「それじゃ、朝食は用意しますので。言ってもらえれば夕食も用意します」

「分かったわ、ありがとう」


 建物の二階にある部屋に僕とメイリンを案内してくれたおじさんは、それだけ言うと階下に戻っていった。


「タケル、荷物置いたら私の部屋にきて。明日からの説明をするわ」

「分かった。すぐ行くよ」


 メイリンが扉に手をかけた部屋とは別の部屋に入ろうとした僕に、メイリンが声をかける。剣や着替えなどが入った荷物を部屋に置くと、すぐにメイリンの待つ部屋へと向かう。


「それじゃ一応説明しとくわね」

「マッドプラントだっけ? 名前だけ聞くと……植物の魔獣ってこと?」

「そうね。マッドプラントは植物の魔獣の総称で、恐らく複数種類いると思うわ。森の中に普通の植物と見た目がそう変わらない魔獣がいるから、注意が必要よ」

「植物の魔獣もいるんだ……。食虫植物みたいな感じかな」

「虫を食べるような植物とは違うわ。何せ、人を襲うんだから」


 依頼の魔獣討伐の目標となる森は村のすぐ横にあるのだが、すぐに日が暮れてこようとする時間だったので、森に入るのは明日の朝からにしようとしていた。そこで、初めて出くわす魔獣に僕が戸惑わないようにと、メイリンが事前に説明をしてくれている。安定のメイリンのバックアップだ。植物なのに魔獣・・とはこれ如何にとも思ったが、下手なツッコミを入れて怒られるのも何なので黙っておいた。


「植物の魔獣なあ、俺も何種類か知ってるぜ」


 懐の中からスライが声を出す。スライが入った瓶をしまったままだったことに気づき、テーブルの上に瓶を置く。


「スライも知ってるんだ」

「アイツらは俺たちスライムと同じ所に生息してることが多いからな。近寄って襲われても何だから近づかないけどな」

「魔獣同士でも争うもんなんだね。というか近寄らないって、相手の位置が分かるの? なんだか森の植物に紛れてる、みたいな話だったけど」

「ああ、魔獣がいるかは念信・・で分かるからなあ」

「念信、ってそんなことまでできるのね……驚きだわ」


 スライが会話に入ってくるが、どうやらスライの念信は魔獣にも有効で、しかも森の中に潜む魔獣の存在が分かるようだった。なんとも便利な力だが、とするとスライが魔獣の位置を探ってくれれば、危険なく森を進めるということじゃないだろうか。瓶の中でふよふよ浮いているマリモ・・・のようなスライだが、意外と高スペックで驚く。


「まあ、詳しいことは明日森に入ってから話すわ。実際に見てみないと実感もないだろうし」

「分かった」


 それだけのやり取りをすると、メイリンの部屋を出て自室に戻った。


「ねえ、スライ。さっきの話だと、スライは常に近くにいる魔獣の位置が分かるってことだよね?」

「そうだなあ」

「それ凄くない? ……敵が近くにいたら教えてくれるよね?」

「どうかなー?」

「ええええーー……」


 瓶の中に浮いているスライがにやにやと笑っている感じがした。

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