第29話 魔獣討伐の日々、新たな仕事

 前を歩くメイリンに続き、僕たちは城を出て街を歩いていた。

 さっきまでダリウスさんの部屋で話をしていたのだが、感極まった様子のダリウスさんの収拾がつかなくなったので、外に出てきていた。ダリウスさんはメイリンがどうどうと宥めてようやく落ち着いたのだが、スライムの生態に関する論文を書くと息巻いていたので、今ごろはさっき話していた内容を必死にまとめているのだろう。


 そんな中、ゼストさんは時間が作れないようで、ダリウスさんはそれどころじゃない様子だったので、今日も訓練としてメイリンと共に魔獣討伐をすることになった。


 迷いのない足取りで、メイリンが昨日と同じ狩人ハンター組合ギルドの扉を開く。


「あの、メイリン。今日は……」

「ディグドッグよ」

「またかあ……やったら強い魔獣と戦わされるのも勘弁だけど、数が多いし、ちょろちょろ素早いから疲れるんだよなあ……」

「文句言わない。訓練なんだから。それに魔獣で街の人たちが困ってるんだし、大事な仕事よ。報酬ももらえるし……ちょっとだけど」

「メイリンさん、おはようございます。今日もアレですか?」


 掲示板に貼られている依頼書のようなものを剥ぎ取り、メイリンと話しながらカウンターに向かうと、今日もカウンターで対応している筋肉さんに話しかけられる。


「ええ、同じ依頼をお願い」

「助かります。報酬もそんなに出せないんで、誰も仕事を受けてくれなくて困っていたんですよ」

「ほらね? 大事な仕事なのよ」

「はい……文句言わずがんばります……」

「ああ、それとタケルさん。認識票・・・ができてます。こちらをどうぞ」


 メイリンさんと筋肉さんの会話に思わず謝ってしまったが、そんな筋肉さんが僕の方に金属のプレートが繋がれた鎖を渡してくる。受け取って見ると、金属板に書かれている僕の名前と、ネズミの顔のようなマークが描かれているのが目に入った。


「どうも。このマークは?」

「階級を表すものです。達成した仕事の数や難易度によって、我々組合ギルドで評価させていただいています。タケルさんは認識票を新規に作成したので、初めの位ですね」

「は、はあ。そういうもんですか」

「まあ別にタケルは本格的に狩人ハンターになるわけじゃないんだし、気にしなくていいわよ。今のところは本当にその意味の通り、認識票・・・よ」

「なるほど」


 なんだか、ゲームで見るような組合ギルドの階級のような概念が存在するようなので、思わずわくわくしてしまったが、メイリンの言葉が僕を現実に戻す。

 なんだろう、少しでも夢を見ちゃダメなんだろうか。


「それじゃ、戻ったらよろしくね」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 簡単なやり取りで組合ギルドを後にし、早速昨日もさんざん倒したディグドッグを倒しにいくため、街の外に向かっていった。


「あれが狩人ハンター組合ギルドかあ。話には聞いてたけど、実際に見ると何とも言えない気持ちになるなあ」


 建物を後にしたところで、僕の懐の中から声が聞こえた。


「こんなところで話かけないでよ、スライ。誰かが聞いてたらどうするんだよ」

「ああ、大丈夫だって。念信を飛ばす相手は選べるからさ。他の人間には聞こえないようにしてるよ」

「へ、へえ……そんなこともできるの。便利なものなのね」


 急にスライが話しかけてきたので、驚いて声を返す。しかし、スライが言うには他の人には分からないように話しているらしいが、意外に便利な力――というか、スライ自身が持つ念信というものに、メイリンも驚いた表情を見せる。相手に届いているかが分かり、届ける相手も選べるというのだから、確かに便利だ。


「そう言えば、スライは魔獣だけど、僕たちが魔獣討伐するのはどう思ってるの?」

「まあ、俺も狩られる対象だからいい気分じゃないけどなあ。ただ、魔獣は人間を襲うもんだから、そりゃ討伐もするわな、とは思うよ」

「魔獣のくせに達観してるのね……とにかく、今日もじゃんじゃん狩るわよ!」

「じゃんじゃんって……狩るのは僕なんだよね……」


 メイリンの威勢のいい声で、今日も今日とてディグドッグ狩りが始まった。

 結果的に、昨日と同じようにスィスモス山付近の平原を歩き回り、ひたすらディグドッグを見つけては狩る、という連続だった。


 初めての魔獣との戦いに比べ、襲いかかられてもある程度落ち着いて対処できるようにもなったが、基本的に群れで襲いかかってくるので、ひどく面倒だった。



 結局、その日は日が暮れようとする時間までディグドッグを探しては狩るという仕事を続けた。その日というか、その日から三日間、全く変わらないディグドッグ狩りを続けることになった。ひたすら続く魔獣討伐、そしてステップアップもしない毎日に流石の僕も飽きてくる。


「タケル、おつかれさん」

「疲れたー。昨日もディグドッグ、今日もディグドッグ、きっと明日もディグドッグって、流石にやんなってくるよ……」

「何よ、文句あるの?」


 連日続くディグドッグ討伐を終え、僕たちは街に戻ってきていた。


「ごめんなさい、文句とかじゃないです。ただちょっと、飽きてきたなあって」

「魔獣討伐に飽きるも何もないわよ。でも、そうね。いつまでもディグドッグ討伐じゃ訓練にもならないし、明日からは違う依頼を受けてもいいわよ」

「え、本当に!」


 思わず口から出てしまった不平だったが、メイリンからは意外にも新たな魔獣討伐の仕事を受けていいと返ってきた。どんな魔獣かはちょっと怖いけど、どんな魔獣がいるか、という点については興味もある。言ってみるもんだ。


「で、どんな魔獣を……?」


 組合ギルドの建物に戻り、報告をすますと、早速というように掲示板に向かったメイリンが貼られている依頼書を少し眺め、一枚の紙を剥がす。どんな仕事かと思いおずおずと聞いてしまう。


「これね。難易度としてはまあ、新人のパーティ向けかしらね」


 メイリンが見せてきた紙には、『マッドプラントの討伐』と書かれていた。

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