第27話 スライの能力《アステル》
朝。鳥の鳴き声で目が覚めた。
昨日は初めての魔獣討伐の上に、色々とあったので疲れていたのか、目が覚めても体がまだだるい。ベッドから身を起こして部屋の中を見ると、朝食が置いてあった。恐らく、メイリンが置いていってくれたんだろう。何で起こしてくれなかったのかは分からないが。
「おはよう……」
「おはよう、って寝すぎだぞ、タケル。娘さんが起こしに来てたのに全然起きねえんだから」
「あ、そうだったの」
ベッドから降り、パンとスープだけの簡素な朝食が置かれているテーブルの方に向かいながら、スライに朝の挨拶をする。昨日の夜は悪い冗談を言われたもんだけど、スライは特に何もないような顔をして、テーブルの上に置かれた瓶の中で、ふよふよと浮いている。
朝食の前に座り、スプーンを持って豆のスープに手をつける。
「そういえば、昨日の夜なんかあった? なんかスライの声がぶつぶつ聞こえてよく寝れなかったんだけど」
「ああ、それな」
パンをむしって口に放りながらスライに声をかける。
昨日の夜は体が疲れて眠気がすごかったのだが、夜遅くにスライが何かを喋る声が聞こえ、目を覚ましてしまった。まどろんでいたので何を喋っているのかは分からなかったのだが、誰かと話しているような感じがした。同じ部屋にいる魔獣がぶつぶつと何かを喋っているのはスライを一旦信じたものの気持ちのいいものではない。
スライが何かを喋ろうとするところで、部屋の扉が勢い良く開けられた。
「ちょっと、タケルいつまで寝てるのよ――って、起きてたのね」
「ああメイリン、おはよう」
「タケル、お前お気楽だなあ。娘さん、散々起こしてたんだぞ」
「そうよ。今日も魔獣討伐に行くんだから、ちゃんとしてよね」
「ごめんごめん」
部屋に入ってきたメイリンが、部屋のテーブルの僕の横の椅子に座り、スライとの会話に入ってくる。ちょっとした違和感を感じるが、構わずスープを
「食事を取ったらすぐに支度してよね。これ、着替えだから」
「分かったよ、でも昨日は大分疲れたから少しゆっくりしても――」
「ダメよ。昨日も陛下のお話があったでしょ。
「はははっ、娘さんは厳しいな。タケル、お前この娘さんに稽古付けてもらってるのか。昨日の話も変な感じだと思ってたけど、男のくせに情けねえなあ」
「え、何?」
メイリンの厳しい言葉に、スライが瓶の中をふよふよと動き回りながら笑い声を上げる。笑い声と言ったが、正確には僕にだけ聞こえる念波のようなもので語りかけていると言っていたスライが笑った後、メイリンが固まっている。その視線の先にはスライが入った瓶がある。
「ちょっと今……タケルの声じゃないわよね? 『情けねえ』とかいうの」
「え?」
メイリンの言葉によると、なんとスライの声が
「待って待って、メイリン。スライの声が聞こえるの?」
「え、今の声って、このスライムが話してたの?」
「スライムって言うなよ。せっかく『スライ』って名前にしたんだから」
「嘘……本当に喋ってる……?」
メイリンは口に手をあて、信じられないものを見ているような表情でスライの瓶を見つめる。僕の
「ああ、だからさっき言おうと思ったんだけど、昨日の夜なんか美人さんが急に現れてさ。俺に
「え、何? どういうこと?」
「そんな……女神様が魔獣に
「だから娘さん、魔獣とかスライムとかやめてくれよ。『スライ』な、よろしく」
「ちょっとメイリン、どういうこと?」
スライが女神に
「魔獣――のスライが
「そんなこと……あり得ない……あり得ないわ。ダリウス様に報告しないと……あ、でも。
「どうしたんだよ娘さん、そんなにおかしいのかい? ああそう言えば力の名前みたいなのも言ってたな。たしか、『
「な、何よそれ。
会話の途中だったが、たまらないという様子でメイリンが走って部屋を出ていった。スライの話では、僕だけが意味を理解できるスライからの念信を、メイリンにも理解できるように飛ばせるというようなものであった。イマイチ意味が分からないけど、メイリンにも言葉が通じているので、そういった力だと理解しようと思った。
飛び出していったメイリンはダリウスさんにスライのことを伝えると言っていたが、大丈夫なんだろうかという気持ちがある。昨日のメイリンの話では、街中に魔獣を入れただけでも重罪だと言う。街で暴れまわっている魔獣の姿を見た今だからこそ、その罪の重さも確かに分かる。
どうしようかと思いながらも特に何もせずスープを啜っていると、廊下の方から誰かがこっちに駆けてくるやかましい音、そして再び勢い良く開けられた扉からダリウスさんが飛び出してきた。
「どこじゃああああああ!! 魔獣はどこじゃあああああああ!!」
血相を変えたダリウスさんの顔を見て、ヤバいなあと頭の中で思っていた。
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