第25話 北の蛮族
お城の玉座の間。
王様を含めた、その広間内にいる人たちは皆、難しい顔をして黙っている。
「あ、あのー……」
あまりにも分からない話が展開されているので、たまらず手を上げてしまった。全員の視線が僕の方に集まる。手なんか上げない方が良かったかも知れないと、すぐに後悔した。
「おおタケル殿、どうもすまなんだ。事が事だけに蚊帳の外にしてしまったのう」
「あ、それはいいんですが……その、
僕がいることに今気付いたような表情のダリウスさんが一応相手してくれるが、なんとも言えない反応だ。しかし、この際聞いてしまえと、気になることを口にした。
「うむ、パラサイトとは魔獣の名じゃ。人や動物に寄生するように魔獣化を促進する力を持つため、そう呼ばれている。それに加え、魔獣化した体をそのまま乗っ取るという厄介な魔獣でな……」
ダリウスさんからはもの凄く物騒な話が返ってきた。動物に寄生して魔獣にさせて更に意識を乗っ取るなんて、どこのホラー映画だ。
「そんな魔獣がいるんですか。あれ、でも……人間が、魔獣化するんですか?」
さっきのダリウスさんの言葉に『人や動物を魔獣化』とあった部分が気になった。
今まで聞いた話の中では、魔獣は動物が変異した存在と聞いていたけど、それが人間も同様ということだろうか。だとしたら、結構恐ろしい話だ。
「……そうじゃな、タケル殿は知らなかったのだな。確かにパラサイトに寄生されれば、人でも魔獣化する。人間が自然に魔獣化することは
「あの、
「それが北の蛮族のことだ」
ダリウスさんの僕に向けた説明の中、交代するようにして今度は王様が答える。
「蛮族?」
「うむ、魔獣化した人間の民族のことだ。人間と変わらぬ見た目をしているが、野蛮なやつらだな。というか、メイリン……説明しておらんのか」
「陛下、申し訳ありません。まだ不要かと思いまして」
話によると、やはり人間が魔獣化することはあるらしい。
それも、『北の蛮族』と言うからには、それなりの数が徒党を組んでいるのか。
「ふむ、まあいいだろう。話を戻すが、パラサイトが自然に入ってくるとは考えられん。まず、ここらにはいない魔獣だしな。人為的に王国内に入れられたということだ。仮に蛮族どもが王国に入っているとしたら事だぞ」
「え、魔獣化した人間がその『蛮族』じゃないんですか? それならすぐ分かるような……」
王様が話を進めようと喋り始めるが、またもや気になる話が出たのでつい口を出してしまった。再度集まる皆の目線。話の腰を折ってしまったことになるので、王様の顔がピキっと引きつるのが分かった。またやってしまった。
「タケル……あのね、北の蛮族――
「えっ、どういうこと? 魔獣化すると正気を失って暴れたりするじゃないの?」
「セレーネの民が魔獣化した人間、っていうのも一説なのよ。現にパラサイトに寄生された人はタケルが言ったみたいになるし、自然に人間が魔獣化するってこともないわ。それと、後でちゃんと説明するから、ちょっと黙ってて……」
「あ……ごめんなさい」
何度も空気を読まずに口を挟んでしまう僕に、呆れ顔のメイリンが答えてくれた。そして、怒られた。しかし『セレーネの民』と言っていた魔獣化のような状態になった人たちがいることだけは分かったので、ひとまずそれだけ分かったことを良しとして、もう黙ってよう。視線が怖い。
「ダリウスよ……だから儂は言っただろうが。北部の周りに戦力を割きすぎなんじゃないかと。これは王国に対するやつらの攻撃だ」
「陛下、ですからそれは早計かと。悪意のある人間がパラサイトを故意に持ち込んだだけかも知れません。まずはしっかりと城下の調査をするべきかと」
「ふん。まあ任せるが、それで足元を掬われるようなことがあれば……」
「調査は早急に行います。それより今北部の守りをこっちに戻す方が危険です。戦いは続いていますし、セレーネの民の力は
黙って話を聞いていると、少し状況が分かってきた。
北部の人たち――『セレーネの民』と呼ばれている人たちと、この国は交戦状態にあるんだろう。それで王様が今回の件を敵のスパイ活動だろうと言い、ダリウスさんが調査中だということだ。なんとなくの理解だが、大体間違ってないだろう。
「儂はもう休むぞ。今回の件はダリウス、それとゼストでなんとかせい」
「承知しました」
「だから儂は国の危機は蛮族共のことだと言ったんじゃ――」
ぶつぶつと文句を言いながら王様が、奥の方に引っ込んでいく。
残ったダリウスさんやゼストさんはばつが悪いような表情をしていて、メイリンも顔を伏せている。一言で言えば、空気が悪い。
初めて魔獣討伐をして帰ってきたので、褒められるかなと思ったけど、どうやらそれはなさそうだ。ダリウスさんが引き続き調査をして後日話すということになり、その場は解散となった。
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