第24話 魔獣の正体

 先導するゼストさんについていき、僕たちはお城の方に向かっていた。

 ゼストさんは気持ち足早で、歩幅の大きいゼストさんについていくのがやっとだ。メイリンも若干小走りになっている。


「ねえ、メイリン。さっきの衛兵さんたちが使ってたのや、ゼストさんが使ってたのって魔術?」

「あれは能力アステルよ」

「そうなんだ。衛兵さんたちが使ってたのが、強化の魔術の代替になる能力アステルってこと?」

「そうね」


 一生懸命ゼストさんについていってるからか、メイリンからは簡素な返事のみが返ってくる。さっきの戦いで見たのはどうやら能力アステルであるようだった。

 衛兵たちは基礎能力向上ブーストという、ゼストさんは俺専用強化パワフル・ゼストという能力アステルを使っていた。メイリンの言葉を聞く限り衛兵が使っていたのが、強化の魔術に代わる能力アステルなのだろう。


「あのさ……ゼストさんが使ってたのって――」

「ゼスト様のは特別よ」

「で、ですよねえ……」


 能力アステルの名前を見る限り、かなりインパクトがあった。

 僕に与えられた力やメイリンのものも、中々に強烈だったが今のところ一番強烈――いや個性的だ。能力アステルの名前っていういのは、本人の個性でも反映されるものなのだろうか。ゼストさんの性格にもなんとなくマッチしている気がする。


「衛兵さんたちが使ってた能力アステルとは違う力なの? ゼストさんの強さ、半端じゃなかったけど」

「いいえ、基本的には変わらないわ。基礎能力向上ブーストより少し性能がいいくらいって話よ。ゼスト様は能力アステルを使わない状態でも強いから、そのせいね」

「な、なるほど……」


 確かにそうだ。

 僕が見ている限り、ゼストさんは初め能力アステルを使わずに馬面の魔獣の攻撃を受け止めていた。強化の魔術を使っている僕が、なすすべもなくぶっ飛ばされた相手の攻撃を、だ。きっとこのデタラメな世界の中でも、特異な存在なんだろう。


 あの時は混乱していて気付かなかったけど、頭をふっ飛ばされてもおかしくなかった僕がこうして無事に歩けているのも、恐らくは強化の魔術のおかげだ。強化の魔術は使用中、常に魔力を消費しながら身体能力を上げるということだが、敵から受けた攻撃に応じて魔力が盾となる魔術らしい。僕がダリウスさんから聞いた限りでは、だけど。即死するような攻撃を受けた後、魔力がなくなったような感覚と、強化の魔術が自然と解けたのは、そういう訳だろう。


「――ゼスト様、お待ちしていました」


 城の中をまっすぐ進んでいくと玉座の前に立っていた衛兵が声をかけてくる。


「おう、陛下は?」

「中でダリウス様とお待ちです」

「分かった、このまま入っていいのか?」

「はい、そのように仰せつかっています」


 ゼストさんとのやり取りの後、衛兵が扉を開いた。

 促されるままに入っていくゼストさん、その後に続く僕とメイリンが玉座の間に入ると、すでに奥に座っている王様とその脇に立つダリウスさんが見えた。


「陛下、お待たせして申し訳――」

「よいよい、そのままでよい。状況を教えてくれ」


 王様の前に進み出て、膝をつこうとするゼストさんを王様が止める。

 前に話をした時は仰々しい感じだったけど、普段は違うんだろうか。


「ゼスト殿、街中に魔獣が出たというのは本当か」

「ええ、本当ですとも、ダリウス殿。どこから入ったのかは分からないですが、結構強い魔獣でしたよ」

「まさか、そんなことが……ううむ、やはり北の蛮族どもが……」

「陛下、北が不穏・・・・なのは確かですが、決めつけるには早計です」


 ゼストさんと一緒に玉座の間に入ったはいいけど、全くぴんとこない話が始まってしまった。メイリンも口を出さないので、僕も同じようにしているけど、果たしてここに来た意味があるのだろうか。


「ダリウス、調査の方はどうなっている」

「今、衛兵に調べさせています。間もなく分かるかと」

「――戻りました!!」


 まだゼストさんとここに着いたばかりなのに、僕たちの後から来たのだろう一人の衛兵が広間に入ってきた。かなり急いでいたのか、肩で息をしている。


「戻ったか! して、どうだった」

「魔獣が出た時、周辺にいた住民に聞き込みをしてきました……やはり街に出た魔獣は、急に荷馬が変異していたようです……」

「なるほどな……」

「くそっ、やはり北のスパイが入っていたか!」


 ダリウスさんは『やっぱり』というように頭を抱え、王様は憎々しげに誰に言うでもなくいきどおりをあらわにする。


「ダリウス様、では街に現れた魔獣というのは……」

「そうじゃ、メイリン。恐らくパラサイト・・・・・じゃろう」

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