第15話 魔獣の姿
メイリンはギルドを出た後、街の通りをさっさかと歩いていく。
ギルドで依頼を受けたのだが、どこかに用事があるんだろうか。
「あの、メイリン? 今どこに向かってるの?」
なんとなく呼び止めづらい雰囲気はあったが、少なくとも行き先くらいは知りたい。心の準備が必要だからだ。
「もう着いたわ。ここよ」
「え、お店?」
メイリンが止まったのはまたも見覚えのない建物の前。
建物には剣と盾の絵のような看板があり、なんというか聞くまでもないような感じだ。
「えっと、武器屋さん?」
「馴染みの武具店よ。タケルの武具を買うわ」
「武具……」
言葉の意味を
いや考えるまでもなく、言葉の通りに僕が使う武器を買うのだろう。
「お邪魔します」
「いらっしゃい――って、メイリンさん。これはまたお久しぶりで」
「片手で扱えるくらいの剣を一本と、
「へい。お急ぎのご様子ですね」
「そうね。使うのはこっちだから、サイズなんかはお任せするわ」
遅れて店に入った僕をメイリンが指し示す。
気後れしていた僕だったが、店主のおじさんはさっさと奥の棚から一本の剣を持ってきた。
「これなんか、どうです? 結構な
「いいんじゃない? タケル、持ってみなさいよ」
「う、うん」
金属の剣だ。手に持って、そう感じた。
ゼストさんとの訓練では木剣を使っていたため、金属の剣を持つのは初めてだ。
長さは一メートルないくらいだろうか。見た目に反してずしりと重い感触に、『本物の剣だ』という感覚が芽生える。長さはさほどでもないが、
「これ片手で扱うの? 結構重いけど」
「扱いにくかったら両手で扱えばいいわ。剣はそれでいいでしょう」
店主のおじさんは剣はもうこれでいいというメイリンの反応を見て、次にえらく簡素な鎧のようなものを持ってきた。
「サイズは多分これくらいだと思うんですが……ちょっと付けてみましょう」
おじさんがそう言って鎧のようなものを僕の頭のからすっぽりと被せてくる。
金属でできた鎧、体の全面と背中の部分を覆うくらいのサイズで、肩より先の腕は自由だ。その鎧を、脇の下あたりにある革のベルトで留める。
「ああ、ぴったりですね。こんなもんでどうでしょう?」
「それでいいわ。支払いだけど――」
「いつも通り、ダリウス様の所につけておけばよろしいですか?」
「ええ、それでお願い」
「毎度ありがとうございます」
店主のおじさんとそんなやり取りだけをすると、メイリンは挨拶だけしてさっさと店を出てしまった。なんとスピード感のある買い物だろうか。着慣れない鎧の感触に、少し息が詰まるような感覚を覚えながらも、またメイリンを追って店を出る。
「あの、メイリンさん。お金って大丈夫なの?」
「ダリウス様の言いつけだから大丈夫よ。馴染みの店だし」
「そういうもんなんだ。でも、何で街のお店で装備を揃えたの? お城で借りれたりしないのかな」
「それもダリウス様の言いつけよ。タケルがこの世界のことを知らなすぎるから、色々見せてやれって言われたのよ」
「そっか。なんか複雑だけど、自分の装備か。ちょっと嬉しいな」
重みのある
「さて準備も整ったことだし、いよいよ討伐に行くわよ」
「えっ、準備ってこれで終わりなの? なんか水とか食料は必要ないの?」
「水はあるわ。食料は――近場だし、必要ないわね」
「近場なんだ。それと討伐っていうけど、僕たちは何を倒しにいくの?」
剣と鎧を買っただけで準備が整ったというメイリンを質問攻めにしてしまうが、メイリンは無言でさっきギルドで剥ぎ取った依頼書のような紙を僕に渡してきた。
その紙には『ディグドッグ討伐』と一番上に書かれており、中央あたりに対象と思わしき生き物の絵がある。簡単なイラストだが、地面にちょこんと座った犬のような
「討伐って、これを倒すの?」
「そうよ、最近近くの山――スィスモス山に大量発生しているみたいなの。魔獣としては雑魚だけど、ものすごい勢いで増えるから厄介なのよね。その上報酬が少ないから、誰もやりたがらない仕事。まあ実戦が初めてのタケルには丁度いいでしょう」
「なんというか、魔獣って感じがしないけど……」
何かに似ていると思ったが、アレだ。プレーリードッグだ。イラストを見る限り、愛くるしい見た目をしており、討伐と言われても気が引けてしまう。かつ、この小動物を討伐するのが僕のレベルに丁度いいと言われているのであり、その点も複雑だ。
名前の感じからしても、巣穴を掘りそうな感じがすごい。
「何考えてるのか知らないけど、油断しないでよね。そんな見た目だけど、
「は、はい……」
僕の気持ちを透かして見たようなメイリンの言葉に、ごくりと唾を飲んでしまう。
いよいよ、魔獣討伐が始まる。
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