第14話 初めてのギルドの仕事
想像していたより落ち着いた雰囲気の建物。
ギルドという語感からすると、
「何ぼーっと見てるのよ。入るわよ」
「う、うん」
こっちの感慨など知らないメイリンはさっさと建物の中に入っていってしまった。僕も慌ててその背中を追う。
扉を入ってすぐの所に巨大な掲示板があった。そのボード上に、チラシのような紙がべたべたと貼られており、その見た目に一気に『ギルド』という感覚が強くなる。ぱっと見、荒くれ者のような人は――まあいるにはいるが、酒を飲んでゲラゲラ笑っているようなこともなければ、喧嘩なども起きていない。想像より小奇麗だが、建物内の雰囲気は予想の範疇内だ。
「あそこの掲示板にあるのが依頼、とか?」
「まあ、そういうことになるわね。ただ、あそこに貼られてる依頼なんてもんは大して重要なもんじゃないから、そういう仕事は新人とか他にいい仕事がない人が受けるものよ」
「あそこに書かれてるもの以外にも仕事があるってこと?」
「大事な依頼は、大体はギルドの職員から信頼のおける人に直接依頼がいくわ。失敗しちゃ困るものだからね」
「ふうん、そういうもんなんだ」
僕の質問に答えながら、つかつかと掲示板の方にメイリンが歩いていくと、そこに貼られている一枚の紙を慣れた手つきで剥がした。
「え、ここに貼られてる依頼を受けるの?」
「実践訓練って言ったでしょ? 依頼なんてなんでもいいのよ」
「そうですか……」
つまり『どうでもいい依頼』ということなので、僕の高揚感は見事に下降していくが、まあ初めてなんだしこんなもんだろうとも思う。メイリンはそのまま、職員などが並んで仕事をしているカウンターのような所に向かっていく。
ファンタジーの世界のギルド、その受付といえばやはり可愛い女の子――なんてことはなかった。
カウンターで受け付けているのは、人の良さそうなおじさんや、スキンヘッドで筋肉隆々なおじさん、ぎらりと眼光がするどいおじさんなど、様々なおじさんが並んで仕事をしている。
一人女性の職員がいたが美人受付嬢とは表現できず、海賊の女頭目というような雰囲気で近寄りがたいものがある。
「おっ、メイリンさん。お久しぶりです。今日はなんでまた? 軍の依頼かなんかで?」
「いいえ、今日は普通に依頼を受けたいんだけど、いいかしら?」
メイリンと顔見知りなのか、カウンターにいたスキンヘッドのおじさんが声をかけてくる。もういっそ筋肉さんと名付けるが、筋肉さんはメイリンと馴染みのようで、言葉は丁寧だが笑いながら話しかけている。
「これは珍しいですね。そちらの方は?」
「ちょっと訳ありで、ダリウス様の所で預かることになった子よ。登録お願いできるかしら?」
「ど、どうも。
「はじめまして。登録ですね、分かりました。ダリウス様の所で預かってるなんて言われると、勘ぐっちゃいますね。お強いんで?」
「いいえ。新兵みたいなものよ」
とりあえず挨拶をしたものの、筋肉さんとメイリンの会話に入れない。
ダリウスさんの名前がここでも出てくるのを見ると、やっぱりあの人も地位が高い人なんだろうか。そんなことより、筋肉さんのこっちを値踏みするような目が怖い。
その横で、メイリンは書類のような紙にさらさらと何かを書いている。
その文字の中に、僕の名前のようなものが見えたので、恐らくは登録するための用紙なんだろう。
「これでお願いするわ」
「お預かりします。
「これから依頼の魔獣討伐に行くから後でいいわ」
「分かりました。では……タケルさん? こちらをお持ちください」
「え? あ、はい」
認識票とは何のことだろうと思って会話を聞いていたが、筋肉さんが僕に細い鎖のようなものを渡してくる。促されるままに受け取ると、それが金属板がついた首飾りであることが分かった。
「それじゃ、行くから」
「はい、お早いお帰りをお待ちしています」
メイリンがさっさと別れを告げる挨拶をし、筋肉さんもそれを会釈で返す。
用事が済んだのか、メイリンが建物の外に出ていくので、僕もそれを追った。
「これで依頼を受けたことになるの? それにこの、
「それは正式な認識票が発行されるまでの仮のものよ。首に下げておきなさい」
「分かったけど、何の意味があるの? これ」
「……死んだ時に身元が分かるようにするためのものよ。魔獣にやられて白骨化して身元が分かりません、なんてよくあることだしね」
「よくあるんだ……」
言われるがままに認識票を首にかけようとしていたが、予想以上に物騒な答えが返ってきたので顔がひきつる。
ギルドに登録した時にもらえるものだから、何かの魔術の類かと思ってしまった自分がちょっと恥ずかしくなった。
今日はなんというか、いつも以上に期待を裏切られている気がする。
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