第13話 ギルド

「タケル、入るわよ!」

「うわっっ、メイリン!? どうしたの!?」


 威勢の良い声と共に豪快に部屋のドアが――なんだか、デジャブのような感じがする。

 昨日は久々の休みでメイリンに街を案内してもらった後、ゆっくり休んでいた。街の案内といっても、街にある施設を教えてもらったりとか、メイリンの話を聞いたくらいのものであり、明日も訓練があるからと日も暮れないうちに城に戻っていた。


 休みは一日だけで、今日からまた訓練を再開すると聞かされ、起きたくないなあなんて思いながらベッドの中でもぞもぞと動いていたのだ。


「ちょっとした変更よ。ダリウス様とゼスト様が数日忙しいみたいだから、その間私がタケルの面倒を見ることになったわ」

「面倒って……訓練がなくなったのはいいけど、メイリンが僕に稽古つけてくれるってこと?」

「ちょっと違うわ――少し早いけど、実戦訓練・・・・よ」

「実戦……訓練……?」


 部屋に入ってきたメイリンは、『ほら起きた起きた』というように僕を起こし、昨日のものとは少し様相が違う上下の服を渡してきた。メイリンはさっさと着替えろと目で言っていた。昨日のやり取りを学んだのか、服を渡した後、メイリンはすぐに僕に背中を向けている。


 なんというか、気を使ってくれるのは嬉しいが、どうせなら部屋の外に出ててくれないかなとも思う。メイリン自身はあまり気にしていないようなので、もういいかと思い着替えを始める。


「それで、実戦訓練って何をするの?」

「言葉の通りよ。実際に敵と戦って、動き方や戦い方を学ぶの――って、タケル! 着替え終わってないじゃないっ!」

「えっ、あっ? ごめん、急に振り向くと思わなかったから……」

「まったく、着替え終わってから話しなさいよね!」


 服を着替えながら今日何をするのかを聞いたつもりが、着替えが終わったものだと思ったメイリンが振り返り、顔を真っ赤にしながら文句を言ってくる。肌が真っ白なせいか、頬が赤くなると顕著けんちょにそれが分かる。昨日と同じような反応が返ってくるが、心なしかその反応も少し柔らかくなっているようにも思える。


「ごめんごめん、着替え終わったよ。それで、実戦訓練って?」

「全く、変なもん見せないでよね。だからそのままの意味だって言ってるじゃない。実際に敵と戦う・・・・のよ」

「戦うって言われても……それにあの、って何?」

「敵って言ったら、魔獣まじゅうに決まってるじゃない」


 また急にファンタジー感のある単語が出てきたもんだなと思う。この世界の人の感覚なのか、それともメイリンの感覚なのかは分からないが、そんな聞きいなれない単語を当たり前のように言われても困る。


「あの、魔獣って……?」

「呆れたわね。タケルの世界って魔獣もいないの? まあ、魔力のことも知らないなら当然っちゃ当然か。魔獣もいないんなら、一体何と戦ってるのよ」

「いや、何とも戦ってないです……僕の世界はその、平和だったから」

「そんな非常識な世界があるわけないでしょ。でも、確かに平和ボケって顔してるわね」

「し、失礼しちゃうな」


 痛い所をついてくるようなメイリンの言葉に思わずどもってしまう。魔術や、魔獣まじゅうとかいう敵と日常的に戦ってるような世界の方が非常識だろとツッコミたかったが、何を言ってもダメそうな雰囲気があるのでやめておいた。魔獣という言葉に、ゲームで出て来るモンスターのようなものを想像してしまう。


「まあとにかく、すぐに行くわよ。時間がもったいないわ」

「行くってどこに?」

「魔獣討伐と言ったら、狩人ハンター組合ギルドに決まってるでしょう」

「あ、そうですか……」


 なんというかもう、いちいち驚いた反応をするのも面倒な気持ちになり、出て来る言葉をそのまま飲み込むことにした。それにしても、『ギルド』ときたか。魔獣に続いてギルドという、ここにきて分かりやすい言葉というか展開になってきたもんだなと思い、逆に頭が痛くなる思いだ。魔獣という敵を討伐する『狩人ハンター』の『組合ギルド』ということだろう、言わんとしていることは分かる。


「とにかくギルドに向かうわよ」

「あ、はい……」


 メイリンの方もそれ以上説明をする気はないらしく、さっさと部屋を出ていってしまった。

 昨日のようなふんわりした可愛らしい格好でも、いつものようなローブ姿でもなく、濃い目の色でタイトな上下の服と膝まである革のブーツという格好だった。僕に渡されたのも、訓練の時に来ているような動きやすい服だ。


 きびきびとした歩調で城の外に向かっているメイリンの後を僕がついていくが、『魔獣討伐』という不穏な単語に不安を隠せない。それにメイリンは王国の兵士だと言っていたが、何故ギルドに向かっているのだろうか。ギルドという言葉の印象からは、王国とは別の民間組織のイメージがある。


「あのメイリン? ちょっと分からないんだけど、今僕たちはギルドってのに向かってるんだよね? 魔獣ってのもよく分からないんだけど、討伐とかだったら王国の軍が対応するもんじゃないの?」


 城門を出るあたりで、たまらずメイリンに質問を投げてしまった。

 メイリンの方も小さくため息をつきながらも、その質問に答えてくれる。


「こんなこといちいち説明したくないけど、仕方ないわね。魔獣の出現は急なものなのよ。急にある村の近くに危険な魔獣が出たとして、それに気づいてから国の軍隊を動かしても遅かったなんてことが多いの。それに軍の兵士を各地に常駐させておくこともできない。だから、さほど規模が大きくない魔獣の討伐は、民間の組織に委託してるの。それが、狩人ハンター組合ギルドよ」

「なるほど、何か妙な納得感があるよ」

「それは良かったわ。それと、ギルドでは魔獣討伐に足る力量のある人間の管理も行っているわ。討伐に行かせたけど、力量がてんで足りなくて、向かわせた人間も村も魔獣にやられちゃいました、なんてことがないようにね」

「け、結構考えられてるんだね」

「当たり前でしょ。人の生死がかかってるのよ?」

「ごもっともで」


 街を歩きながらそんな会話をしていると、メイリンがある建物の前で足を止めた。


「ここよ」


 そう言ってメイリンが建物を僕に顎で示す。

 その建物の入り口の扉の上には、でかでかと『狩人ハンター組合ギルド』と書かれた看板が掲げられていた。

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