第12話 城下町と山、そして並木道
「うわー、意外と広いんだなあ」
「当たり前でしょう。この国――ローデンベルクの首都よ。大陸内でも指折りの大都市なんだから」
「そうなんだ。なんか王様の雰囲気から、そんな凄い国だと思わなかったからさ」
「……今のは聞かなかったことにするわ」
「あっ、ごめん」
城を出て、街のメインストリートのような道を歩いていた僕とメイリンの二人だったが、思った以上に大きな街だったことに驚いた。ここ数日はダリウスさんたちとの訓練で篭りっぱなしだったし、そもそも僕はこの世界に来てから一回も城の外を見ていない。
街の広さもそうだが、行き交う人々の格好などを見ると明らかに僕がいた世界とは違うことが分かる。まるでタイムスリップしたような気分だ。
僕の姿が珍しいのか、すれ違う人の視線をちょくちょく感じる。確かに周りを見てみると、黒髪に黒い瞳の人などはいない。きっとこの国では珍しいのだろうけど、この世界に来た時の周りの人の反応を見る限り、そこまで変でもないのかなと思う。どこかに日本のような、僕と同じ姿をしている人がいる国があるんだろうか。
「賑やかな街なんだね、露店がいっぱいあるや。あ、あっちの山すごく大きいね!」
見慣れない街の様子に目移りしてしまうが、高い城壁に囲まれた城下町の、その壁の奥に
「スィスモス山ね、とても大きいでしょう。あの北西にあるのがスィスモス山、そしてあっちの南西側にあるのがトシラキア山というの。ここローデンベルクの名物でもあるわ。あの二つの山があるから、この国は別名で『
メイリンが僕に指し示す先には、確かにさっきの山より少し低い山が見えた。国やその周りにある山のことを話すメイリンはどこか自慢気なような、誇らしいというように嬉しそうな顔をしていた。その顔を見て、なんだか僕の方まで嬉しくなる。
「スィスモス山は岩山なんだけど、トシラキア山の方はこの季節はすごいのよ。葉っぱが赤や黄なんかに色付いて、とっても綺麗なんだから。それを見に、他国から来る人もいるのよ」
「この世界にも
「そういう種類の木は知らないわね。でも、ふうん。タケルの世界にもそういうのがあるのね」
「うん、僕の世界の紅葉も綺麗なんだよ。観光名所にもなってる」
「そうなの、なんか不思議ね」
そんな会話をしているとメイリンは遠くを見るような表情になった。色付いた山のことを思い浮かべているのだろうか。確かに、違う世界なのに同じように紅葉があったり、それを楽しむ文化があったり、というのは不思議な感じがする。
「ねえタケル、お腹空かない? 何か食べようか」
「そうだね。あっ、あの露店の肉の串焼きみたいなのがいいな!」
「ええ……? ダリウス様にお金貰ってるし、もっといいの食べれるのに……って、ちょっと待ちなさいよ! もう、しょうがないわね!」
肉を焼く匂いに釣られて、ふらふらと足をそちらに向けてしまう。
ちょっと不満そうなメイリンだったが、僕と自分の分の串焼きを買ってくれた。なんだか女の子に奢ってもらっているようで格好が付かないが、自慢ではないが僕は一文なしだ。この世界には手ぶらで来た上に、来てからお金というものを貰ってないので仕方がない。
「どっか、広場みたいな所あるかな?」
「あ、じゃあ、あっちに行きましょう。いいところがあるのよ」
露店で買った串焼きを食べようと、どこか座れるところがないか探していると、メイリンが先導していく。その後をついていくと、並木道のような所に出て、そこを歩いていくと奥に公園のようなスペースが見えた。
「すごい並木道だね。それに城下町の中に公園があるんだ、広いね」
「そりゃ公園くらいあるわよ。それにこの並木道もすごいのよ。さっき言ったみたいに、もうすぐこの木の葉っぱが一面黄色になるんだから。綺麗なのよ」
「イチョウ並木みたいだな。そっか、見てみたいなあ」
「そのうち見れるわよ。さっ、食べましょう」
そう言って僕とメイリンは公園にあるベンチに腰掛け、一人あたり二本ずつ買った肉の串焼きをもぐもぐと食べる。なんだか、ラム肉のようなちょっとクセのある味だったけど、十分に美味しい。
朝はどうなることかと思ったが、街を案内してもらったことでようやくメイリンとも打ち解けられたような気がする。
僕は串焼きを食べながら、続くメイリンの話にうんうんと頷く。
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