第11話 メイリンさんの場合
僕は一人自室のベッドに横たわっていた。
連日の特訓と称したシゴキにより、全身が痛い。指一本でも動かしたくないような気持ちだ。
結局、ダリウスさんとの訓練では魔力量の向上と言われて、ひたすら訓練場を走らせられていた。スタミナを付けるのと魔力量に何の関連性があるのから分からないけど、ダリウスさんが有無を言わさない雰囲気で『ある』と言うのだから僕に拒否する余地なんかない。
更に勿論という感じに、ダリウスさんとの訓練でもメイリンさんが水をぶっかけてくる。この世界ではお約束なんだろうか。無表情で水をかけてくるもんだから、メイリンさんが段々となんかの妖怪みたいに見えてきた。
「せっかくの休みなのに……動く気がしないなあ……」
ゼストさんとダリウスさんの訓練が一日ごとの交互に行われる、ほとんど筋トレと走り込みだけの日々をもう一週間くらい過ごしている。なんでも、今日は二人揃っての用事があるとのことで丸々休みになったのだが、逆に用事がなければ休みがないのかとぞっとした。
そんなわけで一人でゆっくり――何もせずにベッドで横になってるわけだが、それにしてもこの世界に来てからの日々を
とにかく、今日くらいはゆっくりさせて貰おう――
「タケル、入るわよ!」
「え、ええっ! メイリンさん!?」
威勢の良い声と共に豪快に部屋のドアが開かれ、メイリンさんが入ってきた。
急な登場にも驚いたが、普段と雰囲気が違う格好にも目を奪われる。
「きゅ、急にどうしたのメイリンさん。今日は休みじゃ……」
今日のメイリンさんは、いつもの魔術師のローブのようなものをまとっておらず、長袖の白いシャツの上に、上半身がベストのような形になっている青のワンピースを着ている。中世ヨーロッパの町娘というような雰囲気だ。
「休みだから街を案内するわ」
「急なんですね……」
「ダリウス様に言われたのよ。あ、これ着替えね」
有無を言わせぬ雰囲気に、寝間着姿のままだった僕は体を起こさざるを得ない。メイリンさんに新しい上下の服を渡される。恐らく、着替えろということだろう
急な休日の誘いにどきっとしてしまったが、その高揚感を一瞬で持ってかれる。ダリウス様に言われて、ね。まあそんなところだろうとは思ってたよ。
「あの、着替えても?」
「そのつもりで渡したんだけど?」
「いや、着替えるからちょっと向こうを向いててくれないかなって意味だったんだけど……」
「わ、分かってるわよ!」
顔を真っ赤にしたメイリンさんがぷいっと背中を向けてくる。いや、こっちを見ないでくれと言ったのは僕の方なんだけど。
そんなメイリンさんの背中を見ながら、会話もなく黙々と着替えをする。
僕に渡された服は、白いシャツに茶色のベストのような上着に、それに長いズボンだ。割と違和感のない服だったが、着てみるとベストは胸元が広がっているようなもので、気になったのはそれくらいだ。
「ごめん、もういいよ。似合うかな?」
「……普通よ」
「普通か」
少々着慣れない雰囲気の服だったので感想を求めたのだが、メイリンさんは今日もつれない態度だった。
久々の休日に女の子に街案内をしてもらえるという――
「とにかく、行くわよ。街の案内をするから、気になることがあったら何でも聞いてちょうだい」
「うん、分かった。休みなのにわざわざありがとう。それと、何だか今日は――喋り方の雰囲気が違うんだね」
「喋り方がどうかしたの?」
「いや、なんか変な敬語みたいなのなくなってるじゃん」
「――これはっ、アンタがそうしろって!」
格好と共にいつもと感じが違うメイリンさんの喋り方が気になって聞いただけなのだが、メイリンさんはまた顔を真っ赤にしてしまう。どうも、何を言ったら怒られるのかがよく分からない。
「ごっ、ごめん。別に深い意味はないんだ!」
「アンタも――やめなさいよ」
「え?」
「だからアンタもその『さん』付けの呼び方、やめなさいよ」
「あ、ああ……」
メイリンさんが何かぼそぼそと言ったのはよく聞こえなかったが、どうやら僕の喋り方のことを言っているようだ。
「メイリン、でいいわ」
「分かったよメイリン。あ、じゃあ、僕のことも『アンタ』じゃなくてタケルって呼んでよね」
「……分かったわ、タケル」
終始機嫌が悪いような様子のメイリンだったが、その時はちょっとだけ笑ったような気がした。
そんなやり取りの後、僕とメイリンは部屋を出て、城下町へと向かおうとする。
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