第08話 勇者の門出
僕は大広間に残っていた。
王様への悪態をつくダリウスさんが落ち着くまで皆で
さっきまでのやり取りで、なんだか疲れてしまった。
本当に元の世界に帰れないんだろうか。ここにいても仕方ないという気持ちで胸が一杯で胸焼けがするみたいだ。
「ダリウス様、これからどうしましょうか……」
ダリウスさんは肩で息をしているけど、大分落ち着いた様子だ。
体を押さえていたメイリンさんが、ダリウスさんの肩をさすりながら声をかけている。
「ふんっ……ルシリウスの奴には腹が立つが、国の危機には変わりはないからな。あの阿呆は置いておいて、こっちでなんとかせにゃならんだろう」
「とは言いましても……」
また
王様との謁見の前にもダリウスさん達と少し言い争いみたいになってしまったし、なんだか会話に入るという感じでもない。
「おうい、ダリウス殿」
「これはゼスト殿……お恥ずかしいところを」
「陛下もダリウス殿も、若すぎですって。うちの兵達もどうしていいか困るんで、控えてもらえないもんですかい」
「失敬失敬……ルシリウス――陛下のご様子は?」
「大分怒ってましたけどねえ。言葉が汚ねえのなんのって、でも最後には『勝手にしろ!』って言ってましたよ」
先ほど王様を奥に連れて行ったゼストさんが大広間に戻ってきて、ダリウスさんと談笑している。
ダリウスさんへの態度とか、王様を力ずくで引っ張っていく姿とかを見ていると、もしかしたらかなり偉い人なのかも知れない。ダリウスさんとも、気の置けない仲という感じだ。
「君が、メイリンの
ダリウスさんとのやり取りが一段落して、ゼストさんが僕の方に声をかけてきた。
金髪と茶髪の中間というような色の短い髪で、いかにも戦士という
「はっ、はい。はじめまして、
「タケル殿か、利発そうな顔立ちでいかにも勇者という感じだな! あまり鍛えてはいないようだが……魔術に長けているのか?」
「タケル殿の世界には、魔術はなかったそうだ」
「なんと、異界から。そんなことがあるのか! して、一体どんな
「それは……」
「私から説明します……」
またも僕の力の話になったので、ダリウスさんについていたメイリンさんがすっと前に出て、ゼストさんにかくかくしかじかと説明する。
最初の方は頷きながら聞いていたが、話を聞いているうちにゼストさんの顔からは表情が消えていき、最後には無表情になっていた。毎度のパターンだ。
「なるほどな。言葉の力、か…………ははは、はーっっはっはっは! いいじゃないか、昨今は
馬鹿笑いするゼストさんは違う意味で面倒なタイプに見える。
ただ、邪魔者扱いされるよりは幾分マシだ。
「と、言うと?」
「我らでタケル殿を勇者にすべく徹底的に鍛える他、道はあるまい!」
「え、えええ……」
「おお! ゼスト殿、やってくれるか!」
「勿論だとも、ダリウス殿! 国の危機を救う異界の勇者という女神様のお告げ、我らがこれを信じない訳はあるまい!」
またも僕の意思とは関係なく話が進んでいく。
ゼストさんの圧につい怯んでしまったが、もしかしたらこれはチャンスかも知れない。元の世界に戻る手立てがない以上、この世界で身を立てることも考えなきゃならない。王国の兵長が仕込んでくれるというのであれば、きっとこれからの役に立つだろう。魔術――というのもよく分かっていないけど、もの凄いファンタジーの匂いがして興味がある。
「タケル殿!」
「は、はい……ダリウスさん」
「先ほどはすまなかった……儂らも混乱しておったのだ。君の気持ちも考えずに勝手なことばかりを言ってしまった。だが、儂らには女神様のお告げがある。きっとタケル殿が勇者に違いない。元の世界に戻る手立てはこちらの方でも探してみる。その間、どうか儂らに協力してもらえんじゃろうか」
やけに改まった顔になったダリウスさんが僕の目を見ながらそう言ってくる。
なんだか取り乱した所ばかりを見たから変なオッサンだと思っていたけど、その目には真摯な気持ちがありありと浮かんでいる。急に扱いが変わるので反応に困るが、これはこれで悪くない。
「い、いえ……僕の方こそさっきはすいませんでした。帰る手段を探してくれるのは願ってもないことです。是非、協力させて下さい」
「――タケル殿っっ!!」
「うわっ、びっくりするなあ。もう」
僕が快諾するや否や、ダリウスさんが僕の手を両手でしっかと握ってきた。
「決まりだな。俺とダリウス殿が交互で面倒を見よう。剣術と魔術だ」
「まず、適正を見ないといかんからのう」
「あ、あの私は何をすれば……」
「お前はタケル殿の世話をするんじゃ。それに、後々役に立ってもらうから心配するな」
ゼストさんの言葉を皮切りに、とんとん拍子に話が進んだ。
顔を見合わせてにやっと笑っているダリウスさんとゼストさんが気になるには気になるが、まあなるようになるだろう。
こうして、僕の華々しい勇者としての生活が始まる――かのように思えた。
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