第06話 メイリンの能力

 ダリウスさんが話しだす。


「メイリンの能力アステルは求める相手をび出すことができる力なんじゃ。銘を、『片思いの論理ハニー・ムーン・スナッチ』と言う。いや、言った・・・と言った方が正しいのかのう」

「ず、随分な名前の力ですね……」

「なっなによ! 文句あるの!」

「なんでもないです……」


 メイリンさんは僕の感想に不満があるような素振りだったが、さっきダリウスさんが見てくれた僕の力の名前といい、この世界の感覚は少しズレているように思える。

 それに名前だけ聞くと、僕の能力よりよっぽど変じゃないか。


「そのメイリンさんの力で喚ばれた僕が、何で間違いなく国を救う人間だと分かるんですか?」

能力アステルの名前だと分かりにくいんじゃが、メイリンの力はそう断ずるに値するものじゃった。今朝の女神様の神託でお墨付きじゃしな」

「あ、その名前ってダリウスさんが決めている訳じゃないんですね」

「当たり前じゃろ。女神様よりたまわった力じゃ、当然名前も女神様が決めておる」

「す、素敵な神様ですね……」


 どうやらやけにハイセンスな僕やメイリンさんの力の名前はダリウスさんが決めたわけではないらしい。信仰心が強いのか、完全に女神様とやらを信じているトーンの、えらくきっぱりとした物言いだ。この世界で会った人々は、中世ヨーロッパを彷彿ほうふつするような格好をしている人が多かったし、宗教色が強いのかも知れない。


「それで、そのメイリンさんの力っていうのは?」

「メイリンの能力アステルは、自分が望む相手を世界中のどこからでも喚びだすことができる力だ。最初は名前からして、意中の男を引き寄せる力かと勘違いしていたんじゃが、調べていくうちに『自分が望む相手』という条件に制限がないことが分かったんじゃ。まさか異界の人間を喚びだすとは思わなんだが」

「僕を喚んだ時は……」

「も、勿論、『この国――ローデンベルクの救世主』を喚びましたよ、ダリウス様……」

「どうじゃろう。メイリンには前科があるからのう」

「前科?」

「ぜ、前科なんて人聞きの……黙って力を使っただけで……」


 途中からどもり始めたメイリンさんは、真っ白な肌に紅をさしたように、頬を赤く染めている。


「どういうことなんですか?」

「メイリン――こやつは、自分の力をを喚びだすのに使ったんじゃ。二度もな」

「だ、ダリウス様ぁ……」

「は、はあ。そうですか……」

「一度目は、お前達の戦闘訓練を受け持ってた兵長じゃったな。そいつが辺境の任に就いて王国を出ていった時じゃ。中年もいいとこじゃが、あんな感じの男が好みなのか?」

「ダリウス様、今更そんな……若気の至りといいますか……」

「二度目は、なんだか飄々ひょうひょうとした感じの生白なまっちろい奴じゃった。同じくオッサンじゃったが。メイリン、悪いがお前は男を見る目がないぞ」

「そんな、酷い……アレは……優しくしてくれる人とだけ指定したので知らない人でしたし……」

「それで三人目が、お前さんじゃ」


 ダリウスさんがこれまでのメイリンさんの遍歴を話し続け、それを顔を真っ赤にして横からもごもご言いながら止めようとするメイリンさん。親子のようなやり取りだけど、一体どんな関係なんだろうか、この二人。そんな中で急に話を振られても困る。


 というか、僕への当たりはちょっと強いものの、可憐な美少女という見た目のメイリンさんの意外な一面を見たのが若干ショックだった。としはあまり変わらないように見えるのに、この世界はそっち方面は進んでいるんだろうか。


「とにかく、その最後の一回を使って現れたのが君――タケル殿じゃ。間違いだった、じゃすまされん」

「そう言われましても……」

「ダリウス様! 能力アステルの恩恵がなくとも、一流の戦士になった者も多くいます! 私が責任を持って仕込み・・・ますから、お任せ下さい!」

「仕込む、って……」

「まあ、その線しかないじゃろうな。ルシリウスも、この期に及んで『勇者じゃなかった』なんて認めんじゃろうし」


 猿回しの猿のように扱われたような気がするけど、話は僕を置いてどんどん進んでいく。

 戦士? 僕は戦士になるのか?


「僕は、戦士になるんですか? 一体何と戦えば……」

「そりゃあ……」

「国の脅威と……?」

「何でそこが曖昧なんですか」

「だって、平和じゃもん。脅威なんてないんじゃもん」

「じゃもん、じゃないですよ! 一番大事な部分じゃないですか!」


 一体何のために僕が喚びだされたのかも誰にも分からないようで、メイリンさんはばつの悪そうな顔をしている。ダリウスさんなどは、組んだ両手の親指をくるくる回してもじもじとしている。初老の男が何をしているのか。


 こちらの気も知らないで勝手な話ばかりされるので、いよいよ腹が立ってきた。


「勝手に人を喚びだして、勝手に役立たず呼ばわりされて一体何なんですか! そっちの都合なんて知らないよ! 用がないんだったら、僕は帰らせてもらいますよ! いるんでしょう? 指定の場所に飛ばしてくれる力、みたいなのを持ってる人が!」

「……いないわよ」

「は?」

「……そんな便利な力があるわけないじゃろう」


 人を違う世界から喚びだしておいて、その逆は無理だと言う。

 目の前の二人の『何言ってるんだ、コイツ』と言うような表情に、頭がくらくらしてきた。

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