第05話 ないがしろ
多分気のせいなんかじゃない。
僕の
「……あ、あの。一体どうしたんでしょうか」
話しかけるなという雰囲気は勿論感じていたが、このまま放置されても困る。
僕が二人に声をかけても、暫く反応がなかった。
「メイリン……」
「はい、ダリウス様……」
「
「できません……できたとしても、私にはもう違う人間を呼ぶ力がありません」
「そうじゃなあ……」
整然とした印象の強いダリウスさんだったが、今は僕の声が耳に入っておらず呆けたように力なく天井を見上げている。
何かあるのかと思い、僕もその視線の先を見てみたが、何もない。ただの天井だ。
二人がどうも僕のことを無視していることだけは分かる。
いや、無視しているというよりは、
「ルシリウス、怒るじゃろうなあ……」
「陛下とお呼びにならないと……ダリウス様……」
「大体なあ、わが国――ローデンベルクの危機と言われてもなあ。これまでに危機らしい危機もなかったしなあ。女神様のお告げが間違いだったんじゃなかろうか? 最初のお告げ自体、いつじゃったっけ? アレ」
「もう一年ほどが経ちます……ダリウス様、それは女神様への不敬になりますよ……それに今朝改めて神託が下ってるんです……間違いということはないでしょう……」
「満を持して喚びだした勇者が、言葉の
「まだ諦めちゃいけませんよ……剣術や魔術に才があるのかも……」
魔術? 魔術って言ったか、今?
二人が相手をしてくれないので会話を眺めているだけだったが、急に飛び出したファンタジー丸出しの単語に、どうしても反応してしまう。
「この世界には、魔術があるんですか?」
「アンタ……魔術を知らないの?」
飛んで火に入る夏の虫と言うのだろうか。いや、違う。
僕の言葉に絶句している目の前の女の子――メイリンさんの表情からは血の気がさっと引いている。飛び込む先の火も消えた、という感じだ。『魔術』というワクワクする単語を聞いて、思わず会話に飛び込んだのが間違いだったか。
「一体どんな世界から――って、ダリウス様ぁっっ!」
「――はっ! 一瞬飛んだわい」
やり取りの最中、ふらりと倒れそうになったダリウスさんが、小柄なメイリンさんに両肩を支えられている。何なんだ、このやり取りは。
「おっと、何の話じゃったか」
「……いえ、もう大丈夫です。それより僕の
「珍しいと言えば、珍しいわ」
「
「珍しいんですか? じゃあすごい力なんじゃ?」
「少なくとも、一国を救う力とは思えないからのう」
「そうですよね……」
もう掘り下げるのはやめよう。何も出てこない気がする。
目の前の二人はやり取りの後、これ見よがしに深いため息をついているが、言わせてもらえばため息をつきたいのはこっちの方だ。訳も分からないまま、勝手に変なところに連れてこられて、勝手に勇者だと言われたら、勝手にガッカリされる。不条理にも程がある。
こういうもののセオリーは、大体この世界の人は持っていないような力とか武器とかが与えられて、僕の方にそんな気がなくても凄い凄いと祭り上げられるもんじゃないのか。
確かに僕はただの高校中退のフリーターだけど、こんな所で妙に現実的にされても困ってしまう。
「とは言っても、ルシリウスに報告せんといかんからなあ。怒るじゃろうなあ」
「ダリウス様、陛下と……いえ、もういいです」
「そうじゃ。こうなったら、タケル殿の
「すぐにバレますって……それに城吹き飛ばしちゃダメでしょう……」
「じゃのう」
こうして
話からすると、この国の危機が今後発生するため、その危機を救う人間を
お前は用済みだと言わんばかりの二人の態度に段々と腹が立ってきたけど、当人達はこっちの気など知らずに真剣に悩んでいるようなので、口を出し辛い。
でも、さっきの話だと、メイリンさんが僕を
「僕をこの世界に連れてきたのは、メイリンさんなんですか? でも僕が違ったんだったら、もう一回別の人を喚びだせばいいんじゃないですか?」
「さっきも言ったけど……それができたら、苦労しないわよ」
「メイリンは、もう
「ダリウス様……それは……」
「へ? 力って、使うのに限度があるんですか?」
「……そういう
なんだか、歯切れの悪いメイリンさん。
「でも、メイリンさんが喚んだからって僕がこの国を救う人間とは限らないんじゃ?」
「いいえ、それは確実よ」
そこは断言をするメイリンさんの目は、真っ直ぐ僕を見ていた。
透き通るような
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