【Passive sensation】

 右手に残る冷たい赤い液体。

握っているものは、いつの間にか床に落としていた。

目の前にはもう動かなくなった肉の塊。

僕は、何をしているんだろうか。

しかし、これは自分の感情じゃない。

僕はこの物体が、何をしたかなんて知らない。

もしかしたら罪などないかもしれない。

でも僕には関係ない。

間違っているともわからない。

でも、それが正しいかなんてどうでもいい。

僕の仕事は終わったんだ。

早く、元の場所に戻らなきゃ。




 手元に小包が届いた。

それには大量の紙幣が包まれていた。

あとは、次の依頼の手紙が入っていた。

俺はこれで生きている。

でも、ふとこう思う時がある。

前回殺したあの人は、

小包に入ったお金と同じ価値なのだろうか。

そうであれば人間とは、

とても安く買えるものなのだと、

時々不思議と思ってしまう。

それは人間というものの価値にではなく、

いづれは自分もこうなるのではないかという

不思議おかしな感覚に襲われたのである。




 人間はお金で支払える。

なぜなら人間はお金で動くからだ。

こんなことを言うと人聞きが悪いかもしれないが、

実際、人間というものはお金で動かされている。

それは家族を養うためとか、

恋人に好きなものを買ってあげるためとか、

親孝行するためとか色々目的はあるが、

それはつまりお金を得ることが目的であることと

変わりはない。

ゆえに人間はお金のために働いている。

だから人間は金で動かせる。

よって人間は金で支払える。

例外もあるが、大体はそうだ。

自分もお金が欲しいから人を殺すのかもしれない。

でもそんなこと考えたって仕方がない。

人間というのはそれが当たり前で、

誰もそんなことは疑ったりしないのだ。




 両手にこの世の人間を乗せたとしたら、

自分の意思で動いているものはごくわずかで、

ひとつまみでも全然多いくらいだ。

多分、そういう奴が会社などを建てて、

今の経済を回しているんだろう。

そうしたら残りの人間は、

そいつらに勝手に使われる機械みたいなもんだろう。

いわば言葉を悪くするが、

奴隷となんや変わらないのではないかと思ってしまう。

まあ、自分もその一人なんだが。


 



 この世界はとても受動的で、

意思の消えた冷たい世界。

寂しい、どこか温かみの失ったくらい世界で、

僕は今日も機械にんげんころす。

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