【赤い糸と黒い鎖 Ep.3】

 少女の死刑執行日まであと二日。俺は少女のために、今日の朝食でくすねてきたパンを一口サイズにちぎり、自分の牢に戻る途中に牢番に見つからないように檻の間から食べさせてあげた。少女はお口の中をもぐもぐさせて食べる。大きな醤油差しの中を洗って、その中に入れておいた緑茶を飲ませてあげる。少女はさらに口をモゴモゴした。そして俺が檻の中に入る時には、もう中身を胃の元へと通していた。牢番が鍵をかけて立ち去った後、少女は嬉しそうに「ありがとう」と満面の笑みで返した。その笑顔は、何か俺の心臓をきゅっと締めるような感じがした。それはいい意味でも、悪い意味でも。


 その日の夜、俺が寝床で本を読んでいると、「…お兄さん」としいさな声が聞こえる。その声は、少女のものだった。何と少女から俺の方に声をかけてきたのだ。

「どうしたの…?」

俺は少女の目を見て答えた。今更だが、とても綺麗な青色の瞳をしていて、それはサンゴ礁の海を思い浮かばせるようなそんな眼だった。それが小窓から流れる月明かりで反射し、とても綺麗だった。

「…お兄さんは…どうして捕まったの…?」

少女の眼に見惚れていると、少女は俺に話しかけていた。俺は、ごめんと言ってもう一度繰り返してもらう。少女がか弱い声で言うと、俺は腕を組んで沈黙する。そして、少し間を置いた後、少女にこう答える。

「俺…も、君と同じように人を殺したんだ」

少女は、少し目を開き、驚いたような顔をする。それはまるで、俺が少女になぜこんな人が人殺しなんてするのだろうと思う時の顔そっくりであった。俺は少女がそれを口に出す前に、口を開く。

「俺…親を…空き巣に殺されたんだ」

少女がさらに目を開く。そして口を少し開け、驚いたような口をする。

「それで、俺は一人っ子だったから、これまでにない苦しみとか、悲しみを負った。俺は犯人を許せなかった。それで、自力で犯人探しをした。そして3年と数ヶ月前、犯人の居場所を特定した。そいつは俺の親から盗んだ金でそいつの親に新しい家を買っていた。腹が立った。とても。だから俺は、その家族全員を皆殺しにした。…そのあとどうなったと思う…?」

少女は、何かを悟ったかのように、下を向いた。

「…多分、君の思っていることで正解。僕は、その犯人の家族と、『自分の家族を殺した』狂気に染まった殺人鬼として、容疑者となった。」

少女は何も言わず、ただ黙っただけだった。

「俺は、親の仇をとったはずなのに…周りの奴らはみんな俺を悪者扱い…復讐のはずが…最悪の事態となって幕を閉じた。別に捕まるのは知っていた。でも…俺は…周りの奴らが…俺を蔑んだ目で見てくるんだ…それが耐えられなくて…」

俺は緩む涙腺を引きしめ、少女の方を向く。すると少女は、怒り狂った様子で、暴れ出す。そして、気づいた時には両手両足の鎖は木っ端微塵に壊れていた。少女の眼は、美しい青色から、恐怖をも覚える紅色あかいろとなっていた。そして、少女はなんと自分の檻を両手でひん曲げてこちらへとくる。そして俺の牢の鍵を開け、俺の檻の中へと入ってくる。俺は驚きを隠せず、ただそこに突っ立ているだけだった。驚く俺に優しい笑顔で微笑み、そして少女はこういう。









      「私と、この間違った世界を、一緒に作り直そう?」

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