第58話 リバースサイドへようこそ!
草木が生い茂る森――というよりはジャングルのような
「あの、ヨシカズくん。
近所で見付けた緑色の『扉』に入っていた。最小サイズくらいのレベルの裏面だ。入ったことはなかったけど、緑の裏面は全体が森やジャングルのようになっており、その森の中に隠された遺跡のような部分がボスの間になっているらしい。
攻略が目的ではなくて、ユーリと話すため来たのだが、茶や灰色の裏面は日の入らないような陰気な地下なのでゆっくり話すのには適してないと思った。話をするだけなのにわざわざ裏面に入ろうと思ったのは、なんとなくだ。これからの話をするのには適しているような気もした。
「攻略はしない。話の続きがしたくて」
「そうなんですね――分かりました」
真っ直ぐとこちらを見て声を返してくる。今日は落ち着いているようで安心した。
「それで、俺の方でも色々と調べてみたんだけど――ほとんどのことは分からなかった」
「……はい」
なるべく率直に伝えようと思った。
「つまり俺たちが裏面の攻略を続けるなら、また
ユーリは黙って俺の話を聞く。
「ユーリと一緒に裏面に入るようになってからも、その前も、俺とタスクも何回か死にかけてる。元々危険な所だし、当たり前だ。正直、死ぬかも知れないと思うと怖いし、俺が
「私も……それは嫌です……」
ぽつりと呟くユーリだが、俺も次に何と言ったものかと考えてしまう。
「――それじゃあ、やっぱり裏面の攻略は辞めに……」
「いや、俺は
ユーリの言葉を慌てて止めるように言ってしまった。さっきまでの話と真逆のことを言う俺にユーリもきょとんとしている。
「命を賭けるようなことじゃないのは分かってる。分かってるけど、それでもいいと思うんだ。お金だとか、冒険をしてみたいだとか――ユーリの力になりたいだとか、理由を付けようと思えばそれっぽい理由は付けられると思う。でもそうじゃないんだ。俺もタスクも、裏面ってのを知って初めて思ったのは『やってみたい』だった。理由なんてそれでいいんじゃないかって――」
ユーリはまた黙って次の俺の言葉を待っている。俺も構わず言葉を続ける。
「俺とタスクはただの好奇心、ユーリは――よく分からないけど行かなきゃって思ってる。それでいいよ」
「で、でもタスクくんもいないし、勝手に決めちゃうのは……」
「タスクにも同じ話をした。同じ気持ちだよ」
ユーリに言った通り、タスクにも同じ話をしていた。タスクも同調してくれたので、改めて三人で話そうとこの場所を指定したのに何をしてるんだアイツは。
姿を見せないタスクに構わず、木が生い茂る裏面、その入り口部分から奥へと進む方に木の柵があり、その真ん中にある扉に向かっていく。まるで森の中の砦だ。ユーリも何も言わず俺についてくる。
「だから、これからも一緒に裏面に行こう――」
俺は扉に手をかけ、そして押し開く。
「ユーリ。リバースサイドへ、ようこそ」
ユーリの方を振り返り、扉の先を見せるようにして、そう言う。今まで俺達が潜っていた裏面と違い、木や草花が生い茂った景色が広がる。
「すごい……
緑豊かな土地、青い空が広がるこんな場所にも敵はいるのだが、ユーリは俺が予想した通り、豊かな景観に驚いてくれた。
「どうかな? これからも一緒に行ってくれる?」
「はい……勿論です。なんか気を使ってもらっちゃったみたいで、すいません。でも……さっきのは何ですか?」
申し訳なさそうに言うユーリだが、さっきの俺の言葉に突っ込んでくる。
「い、いやあ……何というか
良かれと思って言ったのだが、外してしまったか。一瞬ぽかんという表情を見せたユーリだが、口に手をあててクスクスと笑い出す。俺の決め台詞は見事に外れたけど、ユーリが笑ってくれるならまあいいか。
「そういうのは、自分で言っちゃったら台無しですよ」
「だ、だよねえ……」
「何してんだ? お前ら」
「うわあ、何だよ! 中にいたのかよ、タスク!」
ユーリに笑われて少々気まずくなっていた俺に、急に現れたタスクが声をかけてくる。
「初めて入る種類の裏面だったから珍しくてさ」
何事もないように言ってのけるタスクは何故か上半身が裸だ。というか、濡れてる。
「そんなことより、あっちに湖があったぜ! ユーリちゃん、行ってみようぜ」
「お前……悠長に水浴びかよ……」
「うわあ、すごい! 裏面の中に湖があるなんてすごいですね! 行きます!」
タスクが指し示す先に、ユーリが一人、早速というように奥に向かっていく。仕方ないなと思いながら後を追おうと思ったが、タスクを呼び止める。
「なあタスク――俺はユーリのこともあるから攻略を続けることにしたけど、お前はそれでいいのか? その――色々あったし、俺達」
「何言ってんだよ、水くせえな。こうなったら一蓮托生だろ! 俺はまだ
「相変わらずだな、お前……まあ、そこがいいとこだけど」
「ん? 何か言ったか?」
「何でもない」
ユーリの後を追おうとしたタスクには俺の言葉は聞こえていなかったが、それでいい。
俺達はまた、裏面という不思議な場所に潜るのだった。
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