第57話 結論

「何だ? 今日は一人なのか。あんなこと・・・・・があったってのに、意外と図太い奴だな」

「はは……そうかも知れません」


 シドウさんが笑いながらそう言ってくる。

 俺は一人、渋谷――スクランブル交差点の裏面うらめんに来ていた。ユーリとの話に関連することは、やはり調べても出てこず、裏面のことに詳しい知り合いはシドウさんしかいなかったからだ。

 正直、渋谷に来るのは気が引けたけど、仕方がない。知っているかも、知っていても教えてくれるかも分からないけど、少なくともシドウさんは俺たちの命を助けてくれた。すがるような気持ちで来たってのもある。


「それで今日は何の用だ?」

「それがですね――」


 シドウさんには『黒い扉』のことだけを聞いた。噂に聞いたと言うように話を少し濁したけど。


「ふうん、黒い『扉』ねえ……聞いたことねえな。扉の色くらいは知ってるんだろ?」

「一応……でもなんかホントっぽい話だったんで……」

「第一、出口の『扉』がないってのが嘘臭いわ。そんな危ねえ裏面があったら、俺の耳に入ってない訳もねえし」

「そう、ですよね……」


 頼みの綱だったシドウさんも、黒い扉のことは知らないようだ。渋谷の裏面を牛耳っている組織――エストアークの長であるシドウさんが知らないということは、恐らく知ってる人はいないってことだろう。


「そんな話、どこで聞いたんだ? 噂話でも聞いたことないぞ?」

「あ、いや……その、友達が……」

「この前も一緒にいた奴のことか?」

「ち、違います……」

「ふうん、まあ別にいいけど」


 勘ぐるように俺を見てくるシドウさん。俺が嘘を言ってることはすでにバレているのかも知れないが、追求してくることもない。


「あと、これも噂で聞いたんですが、レベルツーなのに、三種類以上の能力を使う人って、知りませんか? レベル2の取得能力は二つまで、って見たんですが」

ねえ。まあいいけど、そっちは分かる。能力付きの武器・・・・・・・を使えば可能だ」

「能力付きの、武器?」

「前にお前らに、強化値付きの武器を売っただろ? アレと同じだ。アレの能力付き――赤ジェムで得られるような能力を身につけられる武器がある」

「そんなものが……」


 シドウさんが話す内容、それは俺も知らない情報だった。少なくとも、ネット上にはそんなことは書いてなかった。


「そんな奴、ほとんど見ないけどな。能力付きの武具――緑ジェムはレアなんてもんじゃない。俺も二回しか見たことないし、自分で取ったこともない」


 シドウさんの言葉を聞きながら、ふと裏面の中でのことを思い出した。ユーリが突然能力に目覚めた時、両腕に腕輪・・のようなものを付けていた。アレがシドウさんの言う、能力付きの武具なのかも知れない。突然現れたようなそれを、何故ユーリが手に入れたのかは謎のままだが。


「なるほど、分かりました」

「何だ、もういいのか? ジェムの交換とかしていかないのか?」

「いえ、今日はシドウさんに話を聞きにきただけなので」

「そんならいいけど……なあお前、攻略は続けるのか? 俺がこんなこと言うのも何だけど、一度殺されかけて・・・・・・るんだ。俺たちは――まあ金のためにやってるからいいんだが、子供のお前らが無理してやるもんでもないぞ。裏面攻略をする奴なんぞ、正直ロクなもんじゃない」

「……考えときます」


 聞くべきことも聞いたので、裏面を後にする。裏面の奥に人がいたことは、シドウさんには聞けなかった。黒い扉に関係してるような気がしたし、妙なことばかりを言って変に思われるのも得にならないと思ったからだ。


 一人、家へと戻りながら考えていた。

 結局ほとんどのことが分からず終いだ。裏面の攻略を続けていたら、これからも同じような目に遭うかもしれない。


 正直、攻略は続けたいという気持ちはある。良くも悪くもあの生死の境目のような環境にも慣れてしまったし、一番の理由はユーリだ。裏面に行きたいと言うユーリ、何故かは分からないが真剣に考えているようなので、なるべく力になりたいと思う。

 この前の黒い扉の裏面、その奥で見た女の子とユーリが同化する光景、あれはどこか幻想的でもあり、物悲しくもあった。自分の感情に名前は付けられないけど、単純にそう思ったのだ。何も分からないまま一人、何かを探しに裏面の奥に行こうとするユーリ、俺が力にならなくて誰が助けるんだ、という思いもある。ここ最近のことを思って、涙するユーリを見て、特にそう感じた。


 しかし、俺一人で決める話でもないし、タスクにも考えがあるだろう。ちゃんと考えて話さなきゃなと思いながら帰路に着く。


 そして、一つの結論を出した。

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