第49話 新たな能力

 横転したゴーレムはその自重のせいか、起き上がるのに時間がかかっている。

 少し距離を取った位置にいる俺は、ゴーレムへの追撃よりさっきユーリが起こした現象を確認すべきと思った。


「ユーリ……その能力・・は一体……」


 俺の横で涙を流しながら嗚咽おえつを漏らすユーリは、まだ答えられるような状態ではないようだ。それでも、何とか言葉にするように答える。


「さっき、一瞬意識がなくなった時……が聞こえたんです……」

「声? 一体何の――」

「分かりません……でも意識が戻った時、最初から知っているような感覚で能力・・が……私が最初から持っていた能力と一緒です……」


 たどたどしいユーリの言葉は、やはり分からない。

 赤ジェムもなしに能力が突然発現することなんてあり得ない――少なくとも、そんな話を俺は聞いたことがない。しかしさっきのユーリは俺の知らない能力・・・・・・・・を使っていた。ユーリの強化値や能力を石版に映した状態で確認しているので、他に能力なんて持っていないことは俺も知っている。つまり、言っていることが事実・・だということだ。


「ユーリ、時間がないから簡単に教えて。さっきの能力は一体どんな……」

「私もうまく説明できないんですが、対象の人や物の状態を元に戻す・・・・力みたいです」

「そんな能力が……」


 確かにさっきユーリが俺に能力を使った時、まるで俺の足が元の状態に戻る――まるでビデオの巻き戻しのような状態になっていた。元に戻すにしても、何も飛び散った血・・・・・・までもかき集めるようにしなくてもいいのにとも思ったが、そういう能力なんだろう。今は目にした事実だけを信じようと思った。


「分かった、その能力が増えただけ?」

「いえ……その能力の他にもう一つ・・・・……」

「もう一つ? それも能力なの?」

「はい……」


 またしてもユーリの口から理解できない言葉が出た。

 突然発言した能力が一つではなく、二つ・・だと言うのだ。そもそもレベルツーだとしても、所有できる能力は二つまでだという情報があったような気もするけど、最早そんな情報や常識を考えても仕方がない。


 ユーリとの話の最中、遠くから轟音が聞こえた。


「うおおおおおおい、ギイチぃ! お喋りしてないでお前も来てくれよ! 俺一人じゃ……マジでっ! 無理ぃ!」


 見ると起き上がったゴーレムの攻撃をタスクが躱しながら移動していた。

 流石ににぶい敵の攻撃を回避するのは難しくなさそうだけど、石の床を叩き割りながら迫ってくるゴーレムに戦々恐々という様子だ。


 早くタスクに追いつかなければならない。

 しかし、ユーリが身につけたという能力を知ることが先決だ。


「ユーリ、もう一つの能力って?」

「さっき使ったやつ……名前は、伸縮ストレッチングというものです」

さっき使った・・・・・・だって? 一体いつ?」

「敵の攻撃が迫ってくる時……」


 すでに一度その能力を使っていると言うユーリ。

 そう言われて思い当たるふしがあった。眼前に迫るゴーレムの拳から、飛び込んでユーリを助けようとした時、タイムラグ・・・・・のようなものを感じた。恐らく、あれが能力の効果なんだろう。


「それで、どんな効果なの?」


 ユーリの言葉で能力の片鱗を見たことが分かったけど、実際どんな能力なのかが分からない。早くタスクの元に行かなければいけないので、答えを急かしてしまう。


「対象の、時間を伸びたり縮めたりするものみたいです……詳しく説明するのは難しいですけど、周りから見たら早くなったり遅くなったりするような感じです」

「時間を……? よく分からないけど、分かった」


 時間だって? 時間を操るような能力も、この裏面にはあるのか。

 まるで現実味がないけど、ユーリは嘘を言っている様子もない。それにゴーレムの攻撃を避けた時の感覚から、言っていることも的を得ているような気もする。


 ひとまず、その情報だけを持ってタスクに迫るゴーレムの所に行こうと思った。


「ひとまずそれだけ分かれば十分だ。 ――タスク、今行くぞっ!」

「遅えよっ! 早くしてくれ!」

「――私も行きます!」

「ユーリ……分かった」


 タスクの方に向かって俺が駆け出すと、その後ろをユーリが追走してくる。さっきの様子もおかしかったが、今も進んで前に出ようとしている。


 下がっててくれと言いたい気持ちもある。

 しかし、今は早く戦闘に復帰しようとただ走るだけだった。

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