第48話 刹那の中で

 広間に何度も響く轟音ごうおん

 タスクと二人で挟むようにしながらゴーレムを相手しているが、その攻撃は避けることができても、叩きつけられた拳が石の床を砕き、回避してもその瓦礫がつぶてとなり、俺やタスクの体を削る。


 二人して何度となく攻撃を試しているが、やはり俺の剣じゃ刃が通らない。タスクの方はまだマシのようだけど、敵の体の表面に少しヒビが入るくらいのもので、どの程度攻撃を繰り返したらマトモに傷を負わせられるのかが分からない。


「ギイチ、普通にやってもダメだ! 硬すぎる!」


 タスクも同じように考えているのか、苦しそうな叫びが上がる。


「そんなこと言っても!」


 俺も声は返すが、そんなことを言われてもどうしていいのか分からない。

 マトモに攻撃が入らないのであれば、能力――装填チャージを試してみるか。しかし、それも回数に限度がある。もしかしたら傷くらいは負わせられるかも知れないけど、決定打にならなければジリ貧なことには変わりがない。


 こっちを向いて拳を振り落としてくるゴーレムの動き。それを後ろに下がって回避するが、やはり飛んでくる石塊が脇腹や腿あたりをかすり、鈍痛を感じる。


「くっ――」


 このままじゃ削られて負けだ。

 焦燥感に掻き立てられるような思いでこれからどうするかを考えていると、視界の中にユーリ・・・が見えた。後ろに下がっていたはずなのに、何を考えているのかゆっくりとゴーレムに歩み寄っていく。遠目でよく分からないが、感情がないような表情で何かをブツブツと呟いているようであり、またもあの状態・・・・――観覧車の中で見たような状態になってしまったのか。


 近寄ってくるユーリに気付いたゴーレムがそちらに向き直ろうとするのが見えた。あのままだと危険だ。ゴーレムの攻撃を避けられるような様子でもない。

 すでに攻撃の予備動作に入ろうとしているゴーレムの姿が見えたが、いちばちかという気持ちで、ユーリに向かって駆け出した。


「――ユーリ、危ないっ!!」


 ユーリに向かって叫ぶと、その声には気付いたのか意識を取り戻したように顔を上げた。しかし、ユーリの目の前ではゴーレムが拳を振り上げており、このまま俺が突っ込んでいっても間に合うか間に合わないのか、分からない。しかし、もう止まるわけにはいかない。


 ゴーレムの拳が迫るのと、俺が地面を蹴ってユーリに飛びつくのは同時だった。


「ギイチぃぃぃぃーーーー!!」


 タスクの叫びが聞こえる。

 ユーリの体を抱え、飛び込んだその勢いでその抱えた体ごと横へと転がるようにするが、間一髪間に合わずに直撃を受けると思っていたゴーレムの拳は俺の体を捉えず・・・・、俺が通過した後すぐに床を砕いた。


 避けられた・・・・・と思った直後にくる、足への激痛。


「ぐあああああっっ!!」


 拳は回避できたものの、石の床を砕いたそれ・・が派手に石の塊を撒き散らし、飛来した岩が俺の足を砕き引き裂いた。痛みを感じながらもどうなったかを見ると、右足からかなりの量の血が出ており、足が変な方向に曲がって骨も折れているのが分かる。


「ヨシカズくんっ!!」


 意識を取り戻したユーリが起き上がり、俺の体を抱えて後ろに下がる。

 ユーリに体を引き摺られ、足の痛みにも顔をしかめるが、さっき目の前で見た光景の違和感に混乱していた。迫っていたゴーレムの拳は、俺が飛び出す前にユーリを捉えるだろうと思っていた。ユーリと俺との距離感、もう目前に迫る拳を見れば、それは一目瞭然・・・・だったからだ。


 それでもと思い切り飛び込んで、拳自体は避けられたようだったが、一体何が起こったのかが分からなかった。最後に見た時には、ユーリがゴーレムに向かって右手・・を掲げるようにしていたような気がする。


「くっそ、この野郎ぉおおおおお!! ――って、うわあああっ!」


 後退する俺とユーリを追おうとしたゴーレムに、タスクが後ろから打ちかかっている。軸足を打ち付けたのか、体重を崩したゴーレムがぐらりと後ろに倒れ、タスクが焦ってそれを避けているのが見えた。


「ヨシカズくんっ! ヨシカズくん、しっかりして下さい! ごめんなさい、私のせいで……!」

「いや、いいんだ。怪我は……ない?」

「はい……私は怪我はないです……」

「そっか良かった。でも、これじゃ立てそうにないな……」

「ごめんなさい、私……本当にごめんなさい。治します・・・・


 俺の怪我の状態に錯乱しかけているようなユーリだったが、ユーリ自体に怪我がなかったことに少し安心した後、妙なことを言う。


「――復帰リバート


 ユーリが俺の右足に手を添えながら何かを呟くと、何かの能力が発動するように淡く発光した。しかし、ユーリが呟いたような名前の能力は、聞いたこともない。ユーリ自身もそんな能力は、勿論持っていなかったはずだ。


「えっ、何!? うわわわわわっ!!」


 ユーリが呟いた後、血まみれになっていた俺の右足から流れ出した血液が、逆流するかのように動くのが見え、痛みのある足にむず痒さのようなものを感じる。非現実的で若干グロテスクな光景だ。


「一体何が……って、痛くない……?」

「よかった、ヨシカズくん……本当によかった……」


 ほとんど一瞬のことだったけど、気付くと骨が折れて血まみれだった俺の右足は元通り・・・になっていた。意識が遠のくような痛みも、今はない。

 俺にすがりつくようにして涙するユーリはそんなことは気にしていない様子だったが、一体何が起こったのか分からず、俺の頭には混乱が生まれるばかりだった。

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