第46話 破砕音

「でけえ……」

「でかいな……」


 なんとなく予想はしていたが、今までの敵と同じように石像が待ち構えていた。

 大きさは遠目なので正確には分からないが、三メートルほどの大きさだ。とんでもなくデカいというわけではないが、その顔の位置はバスケットボールのゴールの板くらいの高さに見え、人の形をしていることも相まって巨大に見える。


 人のようなシルエットをしてはいるが、顔は人とも言えないゴツゴツとしたもので、腕も脚も胴回りも、とにかく太い。武器らしい武器も持っていないが、両の手は規格外の体の中でも一際大きく、それ自体が武器であることを物語っているようだ。


「ゴーレム的な?」

「いや……間違ってはいないけど、もうちょっとこう……」

「何だよ」

「いや、何でもない……」


 今までの裏面うらめんで見たことのないような体躯を持ったボス。祭壇の前でじっと立っているだけなのに、凄みを感じてしまう。こんな状況でも緊張感のないタスクの言葉に反応してしまったが、その実、巨大な石の体という見た目は完全にゴーレム・・・・だ。

 腕や足回り、胴などは人の肌のように見えるが、質感は完全に石像だ。いよいよもって、俺の剣で刃が通るのか怪しく感じてしまう。


「タスク、覚悟はいいな。ユーリも」

「ああ」

「はい……」


 扉をくぐり広間へと進み入ると、それを合図のようにして石像は動き出す。

 こちらもユーリの鼓舞チアーを合図として、身構えながら石像に向かっていく。


 まだかなりの距離があるが、相手がどう動くか分からないので、いつでも回避行動が取れるように慎重に奥へと進んでいた。石像は見た目通りののっそりとした動きで、こっちに一歩一歩近づいてくる。

 重量からか石像の動きとともに石造りの床が振動し、その振動のテンポが徐々に早くなる。こちらに向かって走りだしているのだ。


「――避けろ!」


 声もなく真っ直ぐにこちらに向かってくる石像、その巨体には似つかわしくない、予想以上のスピードだ。両側に飛ぶようにして退避する俺達に気付いていないように駆けてきたゴーレムは、大きく振りかぶった腕で、さっきまで俺達が立っていた石の床を殴りつけた・・・・・

 ひび割れめくり上がる石の床。周囲に破片が飛び散り、粉塵が立ち上る。誰もいない床にめり込んだ拳をゴーレムが引き上げると、その拳の大きさくらいに床が陥没しているのが見えた。


「おいおい、冗談じゃねえぞ」

「何だコイツ……動きもてんで鈍いし、反応も――」


 向かってくるのを見てその場を退避していた俺達からすると、明後日あさっての方向に攻撃をしたように見えたゴーレムだが、そのゴーレムが俺の方に向き直る。拳を床に叩きつけた後に姿勢を戻すのも、向きを変えるのもゆったりとしたものだったが、正面から見ると圧が凄く、隙だらけに見えて逆にどう攻めていいのか分からない。


 下手に近寄ってあの拳で殴りつけられでもしたら、粉々にされるのではないか、というイメージが頭に浮かんでしまう。


「おらあああああああっ! ――うお、ってえ!」


 俺の方を向き、自分には背を向けたゴーレムにタスクが打ち掛かる。

 思いっきり振りかぶって、腰の辺りに打ち付けられたタスクのウォーハンマーだが、ゴーレムは僅かに体を揺らしただけで、意に介していない。むしろ打ち付けた時の衝撃に怯んだのはタスクの方だ。


 背後からの攻撃を受け、タスクの方を向き直ったゴーレムは拳を床へと振り下ろす。さっきほどの衝撃ではないが、床はひび割れ、石と石がぶつかり合って砕ける音がする。攻撃の後、すぐに後退していたタスクはすでに間合いの外にいたが、目の前での破砕音に身を縮こませている。


「うへええ、おっかねえ……とんでもなく固いし……」

「タスク、気をつけろよ! 一撃でもってかれる・・・・・・ぞ!」

「いや、見りゃ分かるっしょ……」


 気をつけていればまず当たらないだろう敵の攻撃だが、その威力に身震いする。

 タスクが渾身で放った一撃でさえ、全く効果がないように見えるし、次の一手が浮かんでこない。今だったら俺に背を向けている。タスクがやったように後ろから打ち掛かってみてもいいが、刃が通る気がしない。


 ゆっくりと向かってくるゴーレムに対し、後ろに飛びながら距離を取るタスクも同じように思っているのかも知れない。


 これまで裏面に潜った中で、傷を負わせられるかも分からない敵は初めてだった。

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