第35話 粛清

 部屋の中に叫び声が響き渡る。

 タスクを撃ったボウガンの男のものだ。叫び声を上げる男の顔面を、シドウさんと共に入ってきた男が蹴飛ばした。男が地面に転がるのと同時に、悲鳴がうめき声に変わった。


 斧を持ってこっちに向かってきた男は両足に矢を受けて立てないのか、うめきながら突っ伏したままだ。見ると、これもシドウさんと一緒に姿を現した男が三人、ボウガンを持っている。恐らく彼らが撃ったのだろう。


「お前がこいつらのリーダーか?」

「いやあリーダーなんてもんじゃ……え、エストアークのシドウさんですよね? 渋谷の裏面で何度かお見かけしました……」

「殺しをやろうって奴等のリーダーに知って貰えてるたあ、光栄だな」


 俺達に一声かけた後、シドウさんは仲間と一緒にサーベルの男に詰め寄っている。

 シドウさんも同じようなサーベルを手に持ち、その刀身をしどろもどろと言葉を返す男の肩の上に乗せ、ゆっくりと喋る。男の方はと言うと、部屋にシドウさん達が入って来た時に言われるがままに武器を捨て、丸腰の状態で両手を上げ、降伏のポーズを取っていた。抵抗しても無駄だと分かっているのだろう。


「殺しだなんて、人聞きの悪い……これは事故、そう事故ですよ」

「ガッツリ矢を撃ち込んだ、なんて事故は聞いたことがないねえ。困るんだよねえ、ウチのシマ・・で物騒なことをされると」

「物騒なことだなんて……だから事故だって――あぐっ!」


 言い訳を続ける男に、シドウさんがサーベルを軽く取り回したと思ったら、男の方が小さく悲鳴を上げた。動きが素早くて何をしたのかは分からなかったが、男の、が地面に落ちる。


「テメエ、舐めてると耳切り落としちゃうよ?」

「シドウさん、もう切ってます」

「すっ、すいません……あの……裏面うらめん内で死ぬと、そいつが使ったジェムが手に入るって噂があって……それで、あの……」


 片耳を切り落とされ、男の顔の側面からは血が流れている。シドウさんに脅されてか目が泳いでいるが、引きつったような笑顔のままだ。


「はあ……最近、こーいうやからが多いんだよなあ。あのなあ、別に説明をしてやる義理はねえが、裏面の中で死んだってジェムなんか出ねえ。死ぬだけだ。そして、お前は人殺しになるだけだ」

「そ、そうなんですか……な、なーんだ。ははっ。じゃあそんなことする必要はないですね、もうしません。絶対しません――っぐああああ!」

「テメエ、舐めてると――」

「シドウさん、もう切ってます」


 再び苦悶の声を上げる男の足元に、またが落ちる。

 何故か行動の後に脅し文句を言うシドウさんに、横の人が突っ込みを入れるのも早くなっている。


「お前ら――殺しは初めてか?」

「ううぅ……え? は、はい。初めてです。何ならまだ殺してないですから――」

「嘘つけ」

「は?」

「お前ら、前にもやってる・・・・・・・だろ」

「いや、そ……そんな訳は。やってませんって――かっ……かはっ……」


 シドウさんとの会話の中、男がうずくまる。シドウさんが男が喋っている時に前蹴りを腹に入れたのだ。


「もう面倒くせえわ。ソウマくん・・・・・、後頼んだわ」

「分かりました」

「あー、ちょっとここだとアレだから、別の部屋でやってくれよ。少し戻ったとこの別の道に、また行き止まりの部屋があったからさ、そこで」

「……分かりました」


 シドウさんからソウマ・・・と呼ばれた男は、うずくまる男を強引に立ち上がらせて、首根っこを掴んだまま部屋を出ていった。残る面々も、腕を無くしたボウガンの男や、立ち上がれない斧の男を引きずって、その後を追う。

 男達に襲われている中、急に現れたシドウさん達の様子を見守ることしかできなかった俺とタスクは、その状況をぽかんと見ている。そして、部屋に残ったのは俺達二人と、シドウさんだけになった。


「はー、やっと静かになったな」


 シドウさんは独りごちるようにそう言い、俺達の方に向かってくる。

 さっきの恐怖からか、こっちに向かってくるのがシドウさんだと分かっていても体が強張ってしまう。


「お前ら……そんなにビビってくれるなよ。助けてやったんだから」


 地べたに尻もちをついているような格好の俺達にシドウさんが声をかける。


「まあ、とりあえず……よかったな」


 シドウさんは、交差点の裏面内で見た時と同じような顔をして笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る