第34話 死ぬ理由
俺達にボウガンで狙いをつけたまま薄笑いを受けべる男、斧を肩に担いでゲラゲラと笑う男、そしてその中央にいる街中で出会った男。あまりに非現実で最初は何が起きているのか分からなかったが、脚を撃たれたタスクが悶え苦しむのを見て、さすがに状況は分かった。
しかし、分からない。
「いてえ、いてえよお……ギイチぃ、どうなってんだよ」
ボウガンの矢はタスクの太腿を貫通しているようで、出血はさほどではないが撃たれた脚を抱えてタスクが喚いている。
「だから
「まあまあ、そう焦んなって」
「おい、タスク。痛いのは分かるが静かにしてくれ。
「うう……分かったよお」
ボウガンの男がタスクの頭に狙いをつけるのを見て、慌ててタスクを黙らせた。
「すいません、俺達何かしたでしょうか? 状況は分かってきましたけど、狙われる理由が分かりません。ジェムも、渋谷の裏面で処分しちゃって手元にないですし……お金もないです」
急に襲われ、頭にきている思いもあるが、相手を刺激しないように言葉を選んで喋る。向こうは数も多いし恐らく俺達より強いだろう。でなければ、学生とは言え裏面攻略をしている俺達二人に、三人という大して変わらない頭数で襲いかかったりはしないだろう。
「理由ねえ……まあ、趣味と実益を兼ねた
「検証……? すいません、何のことだか分からないです」
ニコニコと、状況に合わない笑顔を浮かべた男が訳の分からないことを喋る。
「お前ら裏面攻略をしてるんだったら、ネットで情報を集めたりするんだろ? だったら聞いたことはないか? 『裏面内で人を殺すと、そいつが使ったジェムが手に入る』って」
「は? いや、見たことないですけど……そんなことある訳が……というか、そのために俺達を殺そうと?」
「そうそう。まあ俺達も
男の言葉を聞いた俺は、まるで頭をがつんと殴られたような気分だった。
目の前の男が言うことが分からない。そんな
「……ふ……ふざけんなよっ!! そんなことで殺されてたまるかよっ!! 人を殺したらジェムが手に入る? そんなこと信じてる――そんなことで人を殺せるなんて、お前ら頭がおかしいんじゃ――――ぐ、あああああああああっっ!!」
「タスクっ!!」
地面に転がったまま吠えるタスクが、再び苦悶の叫びを上げた。
衝撃で弾かれたように後ろに転がるタスクの肩に、新たな矢が刺さっている。
「ああ、いいねえ。リアルでいい反応だよ。まだ殺すなよ、せっかくの機会なんだから楽しもうぜ。サクっと
「やっ、やめてくださいよ! おい、タスクっ! 大丈夫か!」
今度は肩を押さえて苦しむタスクだが、胸に当たった訳ではないので致命傷ではないだろう。だが、痛みの声を上げるタスクは泣いている。俺も叫びながら、動転と恐怖のせいか涙が出てきた。
「残念でしたー、やめまてーん。ゆっくり殺してやるからよ。そうだな、
「ははっ、最悪。お前本当に趣味悪いな」
「……俺はジェムの確認ができりゃ、それでいいんだけどな」
三人の言葉を聞いて背筋がぞくっとする。
こんな所で、こんな奴等の手にかかって死ぬのか俺達は。弄ぶように殺される姿を想像してしまい、恐怖で歯がカチカチと鳴る。
「やめて――ください……」
「あ?」
「やめてください……何でもしますから……何でもしますからやめてください……」
タスクが振り絞るように声を出す。
涙と鼻水で顔面はぐしゃぐしゃになり、嗚咽混じりの声で助命を懇願する。
「話が通じねえなあ、だからやめねえっつってんじゃん。
「そんな……」
何を言ってもダメだと言う男。
骸骨の敵に襲われた時とは異なる絶望感。今度はユーリも助けには来てはくれない。というか、こんな所に助けに来られたら、ユーリも危ういだろう。もうダメだ、という感情だけが頭を支配する。
「まあ、一人は殺していいんだろ? さっさと
「このやり取りにも飽きてきたしな。じゃあ一人殺すか」
「よっしゃ、俺に任せろ」
そう言って斧を持った男がこちらにゆっくりと向かってくる。
逃げようと後ろに下がるも、すぐに壁にぶつかる。タスクは呆然とした表情を浮かべ、動こうともしていない。
「ま、待って……」
「どっちが先に死ぬ? お前らじゃんけんでも――――」
こちらに迫る男が俺達に声をかけた所で、つんのめるように転んだ。
「い――いでええええええっ!!」
「お前らエストアークの――うっうわああああああ!!」
部屋の中に二人の叫び声が上がる。
斧を持った男は両足と背中に
「はい、終了。お前も武器を捨てろ」
聞き覚えのある声に部屋の入り口の方を見ると、
シドウさんの後ろから何人もの男が部屋に入って来て、ボウガンを持った男を取り押さえ、サーベルを持った男に武器を突きつけている。
「シドウさん……なんでここに」
「ようお前ら、運が良かったな」
涙でぐしゃぐしゃの顔で、俺とタスクは裏面に現れたシドウさんを見ていた。
シドウさんは、いつもと変わらない調子で手を上げて声をかけてくる。
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