第31話 渋谷の裏面で見たもの

 俺達はシドウさんと一緒に、渋谷の裏面内にある石版の列に並んでいた。

 順番が来たので、早速タスクがジェムを使い自分の状態を石版上に映す。


 ――強化:膂力(+1)、耐久(2)、敏捷(1)

 ――武具:ウォーハンマー(1)(膂力+1)


「お、おおー本当だ。すげえ」


 シドウさんと交換した緑ジェムを使った後のタスクが、石版に映し出された自分の能力値を見て驚いた声を出す。確かに、そこには強化値と分かる値が示されていた。

 さっきのシドウさんとのやり取りでは、青ジェムと強化値付きの緑ジェムを交換することにし、それでもまだ疑うタスクに「嘘だったら交換じゃなくてやるよ・・・」とシドウさんが言った。流石にそこまで言われては疑う余地もないし、シドウさんが「それ以上言ったらキレるぞ」と言っているような顔をしていたので、大人しく交換に応じることにした。


「本当だったんだ……」

「まーだ疑ってたのかお前ら。ホントに最近のガキは……」

「いやー、すげえっすシドウさん! おいギイチ、お前も使ってみろよ!」

「こんの野郎……」

「う、うん」


 すっかり気を良くしたタスクと入れ替わり、俺もシドウさんと交換した緑ジェムを使い、石版に自分の状態を映す。


 ――強化:膂力(2+1)、精神(2)

 ――補助:装填(チャージ)(5)

 ――武具:カットラス(1)(膂力+1)


 石版上にはシドウさんが言った通りの情報が出ていた。


「お、ギイチのもちゃんと強化値がついてる」

「だからそう言ってんだろ……てか、お前能力持ちかよ。赤ジェムだったらいくらお前らがガキでも無理やり買い取ってたのにな。しかも装填チャージか、お前がウォーハンマーの方が良かったんじゃねえの?」


 石版上の情報に目が釘付けになっている俺の両サイドから、タスクとシドウさんがあれこれと言ってくる。

 さっきのシドウさんとのやり取りの中で、タスクが『ウォーハンマー』という打撃に向いたハンマー状の先端部分がついている両手持ちの武器、俺が『カットラス』という片手で持つくらいのサイズの剣を選んだ。それぞれに説明にあったような強化値がついていることが分かる。


装填チャージに打撃武器は強えぞ。まあ剣でも結構効果があるとは言うが」

「い、いやでも、俺剣使ってみたかったんで……!」

「まあ何でもいいけどな。レベル2の青ジェムでも持ってきてくれりゃまた交換してやるし」

「おおー、すげえー。ホントにハンマー・・・・だ。メイスとは違うなあ」

「おいここで武器出すな。いらんトラブルになるぞ」

「あ、すいませんっす」


 早速手に入れたばかりの武器――ウォーハンマーを出し、手に持って確かめているタスク。ハンマーを振ろうとするタスクに、シドウさんがやめろと窘めるように声をかけている。

 これもシドウさんが言っていたが、渋谷の裏面うらめんは取引に使う場であるため、ある意味での中立地帯・・・・になっているということだった。そんなとこで武器や能力を使うようなことをすれば、シドウさん達の組織の人間が止めにかかるということで、タスクに注意したのはそんな訳だろう。


「そんじゃまあ、お前ら頑張れよ。ジェムの交換だったら俺がしてやるから、いつでも来い」

「色々ありがとうございました」

「シドウさん、ありがとうっす! また来ます!」


 青ジェムの交換も終わり、シドウさんに別れを告げ、俺達は裏面を後にしようとしていた。タスクと共に、入口付近の『扉』に向かっている

 そんな俺の目に、渋谷の裏面内の人通りの中で、よく見知った人が目に入る。


 ――あれは、ユーリ?


 裏面の『扉』に向かおうとしていた俺の視界に入ってきたのは、ユーリによく似た女の子だった。今日はジェムのやり取りをしに来ただけなのでユーリは呼んでおらず、家で母さんと過ごしているはずだ。こんな所にユーリがいるのは、おかしい。


「ちょっと、ユーリ。こんな所で何してるの?」

「もしかして、俺達に会えないのが寂しくて付いてきちゃった?」

「は? アンタ達、何よ」


 俺が女の子に声をかけ、すぐにユーリだと思ったタスクも似たような声をかけるが、女の子の方は少し乱暴な言葉を返してくる。俺達が知っているユーリとはえらい違いだ。


「え、ユーリじゃないの……?」

「どっかで会ったかしら。アンタ達なんなのよ、気安く話しかけてくれちゃって」

「おい、ユーリ・・・。何かトラブルか?」


 ユーリに似た女の子の後ろから、知り合いのような男が声をかけてくる。


「い、いやそういうわけじゃ。ごめん、知り合いの女の子に似てて」

「ふうん、そういうのやめてよね。ここ・・じゃトラブルはご法度なんだから」

「う、うん。ごめん」


 そんなやり取りの後、ユーリに似た女の子は用があるようで、一緒にいた男と奥の方に向かっていく。俺は――というかタスクもだが、その女の子が渋谷の裏面の奥へと向かっていくのを見ているだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る