第30話 強化値付きの緑ジェム

 戸惑う僕達を置いておき、シドウさんはごそごそと足元を探るようにしている。露店の影に置いてある何かを漁っているようなのでこちらからは何をしているのか見えないが、恐らくジェムを取り出しているんだろう。


「これだこれだ」


 顔を出したシドウさんが露店のカウンターに二つの緑ジェムを置く。


「緑のジェムですか……?」

「そうだ」

「あの、別に俺達緑ジェムは欲しくないんすけど。メイスがあれば十分だし」


 シドウさんが何を言いたいのかが分からず、タスクも口を出す。

 そんな俺達の困惑した表情を見て、シドウさんは改めてにやっと笑う。


「お前ら何も知らねえのな。そんな初心者丸出しだと足元すくわれるぞ? 緑のやつにも特殊・・なジェムがあるんだよ」

「特殊な、ジェム……?」


 シドウさんが取り出したジェムは一見普通の緑のジェムだ。まあジェムなんてもんはそれが何のジェムかを調べなければ分からないのは俺達も勿論知っているが、『メイス』と『こん棒』ばかりのジェムである。それが剣だったり斧だったりしても、大差はないだろう。


「そうだ。このジェムはな、強化値を持った・・・・・・・緑ジェムだ」

「強化値って言うと、青ジェムみたいな?」

「そのとおぉーり! 裏面潜ってんのに、強化付きの緑ジェムを知らない奴等なんて、久しぶりに見たぞ。説明すんのも恥ずかしいわ」

「そうなんですか……タスク、知ってた?」

「いや、知らねえ。てか、ネットにも載ってなかったっしょ」


 強化値を持つ緑ジェムなんて聞いたこともないのでタスクにも確認したが、こいつも知らないと言う。何か変なものを掴まされるんじゃないかと不安になった俺に、シドウさんがわざとらしく立てた人差し指を横に振る。


「強化値付きの緑ジェムはな、青ジェムと違って裏面うらめんの外に出たら効果はねえ。だが、青ジェムで得られるような強化値を裏面内に限り付加してくれるってもんだ。青ジェムと違うところは、レベルによる制限の対象外・・・になる。お前ら、レベル1の青ジェムが合計で十個までしか使えないことくらいは知ってるよな?」


 指で摘んだ緑ジェムを俺達に見せるようにしながらシドウさんが喋る内容に、俺達も特に返事をすることはなく「うん」と頷く。


「つまり、こういうことだ。レベル1の青ジェムを上限まで使ったら、強化値の合計は十だ。だが、強化値がついた緑ジェムの武具を使っている場合、強化値の合計が十一、十二にもなる。その武器を扱うだけで、強化されるってことだ」

「えー、本当にそんなのあるんすか? ガキだと思って馬鹿にしてないっすか?」

「お前、こっちが親切に説明してやってるってのに……ったく、最近のガキは生意気だなあ。本当だよ、何なら石版で確認させてやってもいいぞ」


 失礼かつ疑り深いことを言うタスクに、シドウさんが面倒くさそうに頭をがしがしと掻きながら言葉を返す。交換の前に石版で確認させてくれるって言うんなら、信じてもいいだろう。


「それで、その緑ジェムと俺達の青ジェムを交換してくれるってことですか?」

「ああ、そうだ。お前の方は言葉遣いがまだマシだな。言っとくけどなあ、強化値付きの緑ジェムは貴重なんだぞ? 赤ジェムくらいのレア度だ」

「なんでそんな貴重なもんを、レベル1の青ジェムと交換してくれるんすか?」

「貴重は貴重なんだが、裏面外では全く意味がないからそんなに人気がねえ。それに貴重だけどこの緑ジェムの強化値は『1』だからな。裏面に潜って長いやつにもあんま売れねえんだわ」


 俺達に説明をしてくれているシドウさんの顔には嘘がないように思える。だけど、後々不要になるものだったら普通に別の種類の青ジェムと交換してもらった方が得にも思える。


「ちなみに、膂力とかの青ジェムだと単純な交換とはいかないぞ。俺達も商売でやってるからな。好適のジェム二つと、他のジェム一つの交換だったら応じてやる。だが、この緑ジェムだったら、それぞれ一個ずつの交換にしてやってもいい」

「えー、なんかずっこくないっすか?」

「馬鹿野郎、かなり譲歩してんだぞ。それに青ジェムの強化は考えてやった方がいい。何せ上限があるし、レベル2の青ジェムを取るのはかなりしんどい・・・・・・・からな。緑ジェムの強化だったら、武器を交換すればいいだけだから自由度が利く。それに、この緑ジェムの強化は、膂力・・だぞ。悪い話じゃねえ」


 シドウさんの話を整理すると、レベル1の青ジェムで強化ができるのは合計十個の使用が限界だが、緑ジェムの強化であればその合計値に影響はしない、かつ緑ジェムの強化が気に入らないのであれば、他の緑ジェムを使えばいいという話だった。確かに話だけを聞くといい話に思えてきた。


「おいタスク、どうする――」

「じゃあ、その緑ジェムと交換するっす!」

「意外と即決するんだな、お前……まあ、何度も言うが悪い話じゃないぞ」


 俺がシドウさんの話に乗るかを悩んでいる横で、タスクがあっさりと交換を決めてしまう。タスクのキャラを察したのか、シドウさんが苦笑いをしながら、俺の肩にぽんと手を載せてきた。

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