第32話 新しい武器

 俺とタスクは、偶然出くわしたユーリにそっくりな女の子に目を奪われていたが、渋谷の裏面うらめんの奥へと向かっていったその子は、近くにいた知り合いらしき男達数人と仲良さげに話をしている。どう見ても顔見知りだ。


「いやー、そっくりさんっているもんなんだなあ。ビックリした」

「うん、そうだね……」


 タスクの方も、ただのユーリによく似た女の子と認識を改めているようだ。

 そっくりで済ませるのもどうかと思うくらい似ているのだが、俺達が知らない交友関係があるところを見ても、やっぱり赤の他人なんだろう。


「まあ、外出るか」


 タスクがポツリとそう言い、俺も無言で頷いた。

 渋谷の裏面に来た目的のジェムの交換は終わっているので、もう用もない。


 ちなみにたまりにたまった緑ジェムの交換をできないかもシドウさんに聞いたのだが、強化値もないメイスやこん棒の緑ジェムはただのゴミ・・・・・らしく、交換はできないと言っていた。ただ、メイスだったらまだ初心者向けに売ったりできるので、シドウさんの方で預かってもらうことにした。俺達が持っててもゴミになる緑ジェムでも使い道はあるそうで、継続的に持ってくれば交換の際にオマケ・・・をしてくれる、ということなのでシドウさんの言う通りにした。何だかいいように丸め込まれているような気もしたけど、ゴミになることには変わりないので割とどうでもよかったのが正直なところだ。


 そんな訳で、俺達は渋谷の裏面を後にする。

 前に来た時もそうだったが、入り口の『扉』には出るタイミングを指示する人がいるので、その人の指示に従って外に出る。交差点のど真ん中に存在する『扉』なので、不要なトラブルを起こさないように、交通整理をしているということだ。


「うわっ」

「おい、タスク。止まるな」


 俺達に『扉』から出るように言う人の合図で外に出ると、交差点を歩く人の渦の中にいた。すれ違う人とぶつかりそうになったのか、立ち止まったタスクの背中に俺がぶつかり、文句を言う。人ごみをすり抜けながら、俺達は駅の方に向かっていった。


「いやあ、いい買い物したな。まさか強化値付きの緑ジェムなんてもんがあるとは」

「ね。ネットの情報にないものもあるんだね」


 来た時と同じように、犬の像の付近で立ち止まり話をする俺とタスク。

 換金はできなかったが、武器も新調できたので来た意味があったと実感する。


「新しい武器も手に入れたことだし、これからひと潜り――」

「ねえねえ、君達」


 さっそく今日も裏面に潜ろうと言いかけたタスクの声を遮り、後ろから声がかかる。振り返ると、見覚えのない人がいた。二十代後半というくらいの見た目の男が、にこやかに話しかけてくる。さっき俺達がいた裏面内で見かけた気もする。


「君達、さっきシドウさんと話してたよね」

「お兄さん、シドウさんの知り合いっすか?」

「うん、渋谷の裏面にはよく来るからね。見たところ君達まだ学生でしょ? よくやるなあ」

「いやいや、俺達なんてまだ初心者っすから」


 シドウさんの知り合いと言う男に、タスクも快く返している。


「そっか、初心者か。あ、そうだ。初心者だったら、初心者向けの裏面の場所を教えてあげるよ。裏面探してた時に見つけた場所、メモしてるからさ」

「え、いいんすか?」

「君達みたいな若い子見てると応援したくなっちゃうからね。それに、俺達はもう初心者向けの裏面はあんま潜らないし」

「へー、お兄さん上級者なんすねえ」

「いやあ、まだまだだよ」


 見知らぬ人と話すのはあまり得意じゃないので黙っているが、タスクと男は笑いながら話していた。男がポケットから出した紙のメモをタスクが受け取っている。


「それじゃ、頑張ってね!」

「あざっす!」


 それだけのやり取りをすると、紙を渡した男は手を振って去っていった。

 駅の方に向かって去っていく男を見送ると、タスクがニヤリと笑うのが見てた。


「いやー、ラッキーなんじゃねえの? 自分達で裏面探す手間が省けたっしょ。武器も新調したし、さっそくこれから行こうぜ」

「タスク、お前元気だなあ。まあ確かに新しい武器の感じを試したい気はするけど」

「だろ? お兄さんも初心者向けって言ってたから大丈夫だって」


 結果的に行こう行こうと催促するタスクに押し負け、二人で裏面に行くことにした。今日はユーリもいないため能力での補助がないが、初心者向けの裏面だったら大丈夫だろう。

 渡されたメモには簡単な地図のようになっており、そう遠くない場所にある商業施設のすぐそばに裏面があることが分かる。


 俺達はその内の一つに向かうことにした。


「いやあ、なんか懐かしい感じだな」

「懐かしいって、そんなに前じゃないでしょ。それに、入り口は変わらないし」

「感覚的な問題だよ!」


 雑居ビルの間の路地にあった灰色の『扉』に入り、裏面内の入り口付近で手に入れた武器を出して感触を確かめていた。


「やっぱ、メイスと違って武器って感じがするな! ハンマーだぜ、ハンマー!」

「あんまし振り回すなよ、危ないなあ」

「テンション上げてこーぜ! ギイチの剣もかっこいいぞ!」

「そ、そうかな」


 俺の手の中には、一メートルもないくらいの少し湾曲した刀身を持つ剣が握られれていた。海外の海賊モノの映画に出てくるような剣だ。

 片手に持って一振り、二振りと感触を試す。片手で持つにはやや重いけど、問題もなさそうだ。骸骨の敵相手に剣もどうなのかと思ったけど、日本刀みたいな剣と違って重厚感があるのでかなり強度がありそうだ。


 新しい武器を手にし、俺とタスクは顔を見合わせて笑っていた。

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