第26話 感想戦
「さーて、何が入ってるかなー」
「あんま期待するなよ、別に難易度上がったからって絶対いいものが出るってわけじゃないらしいし」
「そーいうこと言ってると本当にそうなっちゃうぞ。それっ――――ってほらー、そんなこと言うからー」
「安定の
ボスの間の敵を全て倒し終わった後、俺とタスクは報酬が入った箱の前にいた。
タスクが勢い良く開けた箱の中には、何度となく見た緑のジェムが入っている。こっちの心象のせいかも知れないけど、『どうだ』と言わんばかりの堂々とした姿にも見える。
「あんな強いボス倒したのに緑かよーー」
「まあ、そんなもんだって書いてあったろ」
「これが、報酬なんですね」
俺とタスクは見飽きた緑のジェムだが、ユーリの方は興味津々というように箱の中を覗き見ていた。さっきも入り口で使ったので別に緑ジェムが珍しいわけではないと思うけど、裏面の報酬のジェムがこんな感じで箱の中に入っているのが物珍しいのだろうか。
「これでまた『こん棒』だったら流石の俺も怒るぞ」
「お前、そういうこと言うとまた――って自分でも言ってたろ……」
人には文句を言うくせに、自分は迷いなくフラグを立てにいくタスク。
「いやー、それにしてもユーリちゃんの能力すげえなあ。アレがあったら俺たち最強なんじゃね?」
「最強は言い過ぎだと思うけど、確かにとんでもなかったね」
「そんなに変わるもんですか……?」
「変わるよー。自分の体じゃないかと思ったもん。青ジェム使うとあんな感じになるのかー、なんか楽しみになってきたな」
報酬の確認も終わったので、完全に談笑モードに入っていた。
タスクも言っているが、ユーリの能力は確かにすごい。親玉の骸骨を倒した後、少しして効果が消えたので『一定時間』がどれくらいかはイマイチ分からないが、少なくとも一回の戦闘中は効力が続いているようだったので、一瞬で効果が消えてしまうものでもない。
体の動きも目に見えて違うし、体が思った通りに反応するというのは、ちょっとした快感でもあった。能力の説明を見る限り、『
体に力がみなぎるような感覚もそうだ。俺はすでに
「さて、戻るか」
「そうだね。このレベルの裏面もそんな無理なく越せることも分かったし」
「ヨシカズくんも、タスクくんもすごいですね……私、ずっと見てたんですけど、戦える気がしないです……」
「そりゃー、ユーリちゃんは乙女なんだから殴り合いなんか向いてないっしょ! 俺とギイチで倒すから、ユーリちゃんはサポートしてくれればいいって!」
「そう……ですか……?」
「うん、それだけでも十分――どころじゃないくらい助かるよ。あの能力――
どうも戦うのには向いていない気がしていたが、ユーリ自身もそう言っている。
タスクも同感だろうが、別に人手が足りていないわけでもないし、今まで通り俺とタスクの二人で敵を倒せばいいと思う。それに、破格の効果のユーリの能力は、上限回数が十回と余裕もある。危険の少ない後ろにいてもらった方がいいだろう。
ちょっと表情が曇っていたユーリだったが、俺もタスクも本心からそう言っていることが分かったのか、ぱあっと明るく笑う。
「分かりました。でも、私も頑張りますね!」
「かあーっ。ユーリちゃん可愛いわあー。かあーっ」
「タスク君、そういうのはやめなさい」
からかっているのか本心なのか分からないタスクの言葉に、ユーリも少し赤くなっている。なんだこの反応は。タスクが言ったからではない、きっと急に褒められて照れてるだけだ。うん、きっとそうだ。
そんなやり取りの後、俺たちは裏面の入り口へと戻る。帰りの道も吊り橋を渡らなきゃならないのには困ったが、敵ももういないので不安もなかった。
入り口の祭壇で手に入れた緑ジェムの確認をしたが、そこには見事に『木のこん棒』と書かれていた。フラグというものは、本当にあるのかも知れない。
「それじゃ、もう一個くらい攻略するか」
「おいタスク、無茶言うな。ユーリは裏面に行くの今日が初めてなんだぞ」
「ギイチ君、君は馬鹿かね。ユーリちゃんの能力はあと九回も使えるんだぞ! 潜り放題だろうが!」
「あの……私はまだ大丈夫です。疲れてないので」
「えええーー……ユーリ、本当に?」
ユーリが参加してまだ初日だというのに、タスクは次の裏面に行こうと言う。
確かに朝から集まっているので、時間はまだ昼くらいだ。ユーリを気遣ったはずが、ユーリ自身はやる気満々という顔をしている。一体、何だと言うんだ。
「はい、全然大丈夫です!」
「ならいいけど……疲れたら言ってよ?」
「うん。ヨシカズくんありがとう、優しいね」
「おっ、何だ? 何だそのやり取り。おじさん気になっちゃうぞ。ヒューヒューか? ヒューヒューなのか?」
「黙っとけよ、タスク」
ユーリも慣れてきたのか、そんなやり取りの中ころころと笑う。
結局その後も、さっき潜ったのと同じような裏面に潜り、その日は計三つの裏面を攻略した。回を重ねる毎にユーリも慣れてきたようで、文句もなく俺たちについてくる。
二人で潜っている時よりよっぽど安定するので、俺もなんだか楽しくなってきた。
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