第25話 圧倒

 懐に飛び込もうとするタスクに、骸骨が上段から切り落ろしで反撃する。

 ある程度余裕をもって回避するタスクだったが、敵に気圧されたのか、横に飛んだ勢いで転がっている。


「うおおおおおっ、何だコイツ。こええええぇぇ」

「タスク、真面目にやれ――――よっ!!」


 タスクへの反撃でこっちに注意を向けてなかった骸骨の後頭部めがけて、手に持ったメイスで思いっきり殴りつけた。親玉の骸骨が被った金属の兜に打ち込み、鈍い金属音がするものの、しっかりとした重い手応えがあった。

 しかしこの重みは、仕留められないことを同時に意味している。以前と同じてつを踏まないように、骸骨がまだこっちを振り向かない間にすぐに後ろに飛んだ。


「何で頭狙ってんだよ、しっかり兜被ってんじゃねえか!」

「今まで狙うって言ったら頭だっただろうが!」


 骸骨の剣を避けたタスクは、回避の際にわざと地面を転がったようで、俺と同じようにすぐに後ろに下がっていた。外野から野次を飛ばすように文句を言うタスクに、俺も反論で返す。

 しかし、兜ってのは面倒だ。今までの敵がほとんど無防備だったことを痛感する。


 いや、違う。俺のメイスの一撃は、真芯を捕らえていた。今までの敵相手だったら、ユーリの鼓舞チアーで強化された今の力であれば恐らく兜ごと首をもいで・・・いただろう。あの親玉の骸骨自身の耐久力が、恐ろしく高いということだ。


 どこを狙ったものかと考えていると、向き直った骸骨が俺の方に威嚇してくる。


「狙うなら――――空いてるとこだろっ!! って、硬っ!!」


 俺の方に注意が向いたのを見て取ったタスクが、今度は後ろから襲いかかる。

 剣を持つ手の、その腕の部分を狙ったタスクの一撃だったが、横からの一撃に身をよじるものの、弱々しく見える骨は健在だった。逆に、その手応えの重さに驚いたタスクの方が声を上げる。


 一見無防備の腕を狙っても、他の敵とは違い、一撃で沈むようなことはない。

 しかし、タスクが打ち込んだ時の反応を見ると、全くの無傷というわけではないようで、何度か攻撃を繰り返せば打ち崩せるような感じもする。


「タスク、どうだっ!」

「とんでもなく硬えけど、いけなくもなさそう・・・・・・・・・だな」


 攻撃後、しっかりと回避行動を取るタスクに声をかけると、俺が考えていたのと同じような感想が返ってきた。

 両側を挟まれ、しかも後ろからばかり攻撃を受けている骸骨は、心底腹が立っているように口を大きく開き、ゴオゴオと鳴る風の音のような叫び声――のような音を出している。何回も潜っているので骸骨の敵の見た目にも慣れてきたが、一体何の音だよと心の中で突っ込んでしまう。


 ――――試してみるか。


 タスクからの攻撃を受けた後も、俺の方に威嚇を続ける親玉の骸骨に対し、あえて真正面から突っ込んでいった。勿論、敵の動きは細心の注意で見ている。思い描いた動きを反映するような脚力と反応速度で、正面の敵に対して左右にフェイントをかけるように動き、骸骨の攻撃を誘う。


 ちょろちょろと動く俺の動きにしびれを切らしたような骸骨が、俺の着地点を狙って剣を振り下ろすが、軌道を変える余裕を持って動いていたため、すぐに身をひるがえし半身になってそれを避ける。


「――――装填チャージ!!」


 体のすぐ横の、振り下ろされた剣先の軌道を見送りながら叫ぶ。

 叫びと同時に蹴るように踏み込んだ勢いで、骸骨の方に突っ込み、片手で握ったメイスに力が集中する感覚を確認しながら、敵の胴体めがけてメイスを振り抜く。


 俺の一撃は敵の右腕の骨とあばらを粉砕した。

 残った一本の腕、その手に余るような長剣を持ち、まだ近くにいる俺に向かって振り上げようとする骸骨だったが、あばらを砕いたせいか動きが明らかに鈍っている。

 余裕を残しながら、メイスを両手で握り直して敵に向き直り、さっきと同じように敵の頭めがけてメイスを振った。正確には、敵の頭部の下――首をめがけて、だ。


「あああああっっ!!」


 振り抜いた俺のメイスは、敵の首の骨を完全に砕いた。

 支えを失って鈍い音をたてて落ちる敵の首。骸骨の体はまだ動いているようで、俺に剣を振り下ろそうとしてくる。


 兜の頭頂部から伸びている部分を掴んで、首を失った骸骨の脇を抜けて走った。


「おおおーー……何それ、カッコイイ。カッコイイよ、ギイチ君」

「どんなもんよ」


 抜けていった先、タスクの足元に骸骨の首を投げる。

 転がってくる骸骨の首を『気持ち悪っ』と言って避けたタスクだったが、首だけの状態となっても未だ口をパクパクと開閉している骸骨の頭を、何度か叩いて砕いた。

 頭を潰されて、残った骸骨の体もばらばらと地面に落ちる。


「すげー。すげーわ、ギイチ君。いつの間にそんなカッコ良くなっちゃったの」

「やけに余裕があったわ。すごいなユーリの能力」

「なんか漫画の主人公みたいだったぜ。俺見入っちゃってたもん」

「言い過ぎだろ」


 敵の親玉を倒し、談笑をする俺とタスク。

 少し離れて俺たちの攻防を見ていたユーリも、俺が敵を倒したのを見てぱたぱたと駆け寄ってくる。


「よかった、ヨシカズくん。怪我はないですか?」

「ああ、大丈夫。ユーリの能力のおかげだよ」

「そんな……よく分からないです。でも無事で良かった」

「ギイチ君、すごかったでしょ? こりゃユーリちゃんも惚れちゃうなあ」

「うっさい」


 俺たちのいるボスの間は、敵を全滅させたことで静かになり、ユーリを混ぜた俺たちの談笑の声が響くだけだった。

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