第24話 あり余る力

 軽い。軽い軽い。

 軽く走り出したつもりが、前に引っ張られるような感覚が、自分の脚力によって生み出されたことに気付くのに、一瞬だが間があった。自分の体じゃないみたいだ。


 一番手前にいる骸骨に向かって駆け出したつもりが、次の瞬間もう目の前にいる。

 こちらの存在には気付いていたものの、構えるのが遅れた骸骨の頭めがけてメイスを振るい、一撃でその頭を砕いた・・・。インパクトの瞬間の感触も、装填チャージを使った時のものに似ており、卵を割ったくらいの軽さだ。


 ぐしゃりと地面に沈む骸骨のすぐ横に、また別の敵が俺に向かって構えたため、すぐにそちらに向けて飛びかかる。勢い良く飛びかかった俺から身を隠すように骸骨が盾を向けてきた。

 その盾のど真ん中をぶっ叩くと、激しく鳴る金属音と共に、骸骨の腕ごと・・・・・・盾が落ちた。金属同士のぶつかり合いにより手の中に軽いしびれが残るが、盾を打ち破った俺に骸骨が剣を振りかぶろうとする。


 距離が近い。そう思って、反射的にメイスを持っていない方の手――左手で拳を作り、頭蓋骨を殴りつける。

 完全には砕けなかったものの、後ろに吹っ飛んだ骸骨は空中でその骨格がゆっくりと崩れ、沈黙した。拳にじんじんとした感覚が残るが、不思議と痛くはない。


「ギイチっ!」

「ああっ!」


 扉に入ってから俺は右側、タスクは左側とそれぞれに敵を相手取ったのだが、そのタスクから声がかかる。タスクの顔は見ていなかったが、言わんとしていることは分かる。

 ユーリの能力――鼓舞チアーにより身につけた圧倒的な力。言葉にすることは難しいけど、得た感触の共感が欲しかったんだろう。


 顔を合わせる必要はない。

 そう思って残った敵――骸骨どもに視線を向けた。恐らくタスクの方もこの感覚を得ているのであれば、同意見だろう。身につけた力は、骸骨を完全に手玉に取ることができるものだった。


 次の敵に向けて駆け出すと、向かってくる俺を警戒した骸骨は剣と盾を構える。

 敵の間合いの中で止まり、一瞬お互いが静止した後、俺をめがけて振り下ろされた剣を横に軽く飛んでかわす。剣が振り下ろされた時に骸骨と視線があったが、その眼窩がんかに宿る赤い光は、俺が横殴りに振ったメイスの軌道でかき消された。


 骸骨が崩れ落ちるのを確認した後、残った敵を見ると、声も出ないくせにどれも口を大きく開いて威嚇しているような顔をしていた。

 目の前の敵は三体、タスクの方をちらりと見ると似たような数を相手にしている。


 ――――余裕だ。


 俺の心の中にはそんな感情が生まれていた。

 こんな異形の敵が襲い掛かってくる裏面の中でそんなことを思うのは馬鹿のすることだろうけど、素直にそう感じてしまう。体の内から湧き上がるような力、そして考えると同時に動く脚、それらが物語っている。


 そんな感慨もわずかの時間で済ませ、残った骸骨を一体ずつ確実に沈めていく。

 ここまでタスクと二人で細心の注意を払いながら相手してきた敵は、もはや敵ではなかった。タスクと二人で分担した俺の方の敵は全て崩れ落ち、タスクの方も同様だった。


「……とんでもねえな、コレ」

「まさかここまでとは思わなかったね」


 一段落したところでタスクと言葉を交わす。

 残る敵は一体。一番奥に控えている、一体だけ雰囲気が違うやつだ。


 俺たちが広間内を駆け、仲間の骸骨を倒しまわっているのを何をするでもなく見ているだけだった。なんとも酷い上司だ。


「ギイチ、あいつ……」

「今までのとは違うな。流石に気をつけて相手しよう」


 ユーリの能力――鼓舞チアーにより全能感に近い何かを感じていたものの、裏面では散々酷い目にあってきたので、油断せずにあたろうという俺の言葉だ。流石のタスクもこんなところで調子には乗らないようで、俺とタイミングを合わせるように敵を伺っていた。


 自分以外の全ての骸骨が崩れ落ちたところで、ようやく杖のようにだらんと持っていた剣を持ち直し、親玉の骸骨が剣を両手に構える。


「ユーリ。下がっててくれていいから、やばいと思ったらアレ・・使ってくれよ」

「あ、はい……」


 何かあったらいけないとユーリに下がっているよう声をかけ、俺とタスクの二人で敵を囲むように位置取る。こんな臨戦態勢の状態で助けてもらえるかは分からないけど、サポートがないよりはマシだろう。


「おおおおおおおっ!! ――――とっと」


 掛け声と共に、タスクが飛びかかろうとするのを骸骨の長剣の一振りが迎え撃った。攻撃の動作を見て取って、手前で足を止めたタスクがそれを避ける。


「タスクっ、気をつけろ!」

「分かってるよ、どんなもんか試しただけだ!」


 流石に他の骸骨とは違って、こちらの動きにしっかりと反応してくる。

 骨だけの体とは思えない俊敏さだ。


「同時にかかるぞ!」

「おおっ!」


 俺が叫ぶのと同時に、二人でタイミングを合わせて飛びかかる。

 親玉の骸骨が『かかってこい』と叫ぶように開いた口からは、ごうごうと風の音のようなものが聞こえていた。

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