第23話 順調な攻略

 昨日と同じ裏面うらめん

 地下墓所のような部屋や道が続く場所を俺とタスク、そしてユーリの三人が進む。


 ユーリが何故か緑のジェムを使っていなかったことはさて置かれ、ひとまずタスクが持っていた俺たちと同じメイスのジェムだけを使い、奥に進むことにした。

 金属のこん棒――メイスを出して手に持ったものの、ユーリは微妙な表情をしていたので、いつもと同じく俺とタスクが前線で戦うことにして、ユーリには危ない時に能力でサポートしてもらうことにした。


「ギイチ、叩け!」

「おおっ! うおらぁっ!」


 体重を乗せて振った俺の一撃で骸骨の頭が粉々になる。


「昨日はヤバい目にあったけど、落ち着いてやりゃあこんなもんよ」

「だから調子に乗るなって。ユーリも大丈夫?」

「はい。でも近くで見ると、やっぱり怖いですね……」


 昨日と同じ道を順調に進んでいた。

 ユーリも俺たちのように殴り合いの戦いには参加していないものの、邪魔にもなっていない。今の所危ない目にはあっていないが、ユーリが俺たちの状況を見てくれているので、何かあれば助け出してもらえるという思いが心の余裕になり、昨日よりも安定している気がする。


「さあ、どんどん進んでボスを倒そうぜ――――あっ」

「昨日の場所だね……」


 意気揚々と進むタスクが一つの部屋に入った所で立ち止まり、追いついた俺もその部屋の中の光景を見る。昨日俺たちが無様にも落っこちた部屋だ。

 穴の下を覗き込むと、俺たちに遅いかかってきた骸骨はいない。ご丁寧に寝床に戻っているんだろうか。


「どうすっかね」

「橋を渡れないと進めないしなあ」

「まあ落ちたらまたユーリちゃんに助けてもらえるし、大丈夫じゃね?」

「アホかお前。今日はユーリも一緒なんだぞ。ユーリが落ちたらどうすんだよ」

「あの……ヨシカズくん、タスクくん」


 昨日の嫌な光景がフラッシュバックしてくる吊り橋を前に、どうするかタスクと言い合っていると、ユーリから声がかかった。ユーリの方を二人して見ると、壁のふちあたりで何かを見下ろしている。


「ユーリ、どうした?」

「あの、コレ……ロープがありますけど」


 ユーリの方に行くと、その足元に地面に深く刺さった木の杭と、それに結ばれた長いロープがあった。どう見ても、穴の下に落として使うものだ。


「あちゃー、そんなのがあったのか。昨日気付かなかったな」

「俺たち二人してアホだったな」

「まあ、これで穴に落ちても大丈夫だってことだな」


 タスクはロープが杭にしっかりと結ばれていることを確認すると、ロープの束を蹴っ飛ばして穴の下に落とした。誰が何のためにこんなものを用意したのかは、ここが裏面である以上考えても意味はないだろう。

 憂いも消えたため、昨日と同様に吊り橋を渡ることにした。


「おい、タスク早く来いよ」

「そ、そそそそんなこと言われても怖えもんは怖えんだよ!」

「あれ、ビビっちゃったー? タスク君」

「テメエ、そっちに着いたら覚えとけよ」

「タスクくん、気をつけて……」


 吊り橋は、俺、ユーリ、タスクの順に渡ることにした。

 すでに渡り終えた俺とユーリはタスクが渡ってくるのを眺めているのだが、吊り橋が揺れる度にビビって止まるタスクを見て笑っていた。昨日のこともあるので慎重になるのは当然だが、俺の後に来たユーリが平然と渡ってきたことは意外だった。肝が座っているんだろうか。


「ぶはー、やっぱ怖えなあ。落っこちなくて良かったあー」

「タスク、お前が一番ビビってたぞ」

「うるせえ!」


 橋を渡り終わったところで、一旦休息を取ることにした。というか、橋を渡り終わったタスクが座り込んでしまったので、そういうことにしている。

 幸いにも昨日橋を渡っている時に対岸から現れた骸骨は今日はいなかったが、近くに敵がいる可能性が高いのであまり悠長に休んでもいられない。タスクが一息をついたのを確認し、再度先に進むことにした。


 その次の部屋にはやはり骸骨がいたものの、タスクと二人で余裕を持って倒す。

 吊り橋には今日もビビってしまったが、奥に進むこと自体に大した難はなく、それ以降は順調に進めたと言えるだろう。


 そうして大体一時間ほど、道に迷ったりしながらも奥に進み続けると、今では裏面内で見慣れた扉を見つけた。


「ついに、来たか」

「結構広かったな……やっぱ難易度が上がると広くなるってのは本当だったんだな」

「えっと、あの扉は何なんでしょうか?」


 ボスの扉を前にして、気持ちを整えていた俺とタスクにユーリが声をかける。


「ああ、そういえばこれも初めてだっけ。あれはボスの間の扉だよ」

「ボス?」

「裏面毎にいるみたいなもんだよ」

「そういうのがいるんですね。でっかい骸骨みたいな感じですか?」

「いや、多分大きさは変わらないかな。ただ、今までのだとかなりの数の骸骨が出てきたから、ユーリも注意してくれ」


 俺の言葉に、ユーリがこくりと頷く。


「なあギイチ、このサイズの裏面では初めてのボス戦だし、ユーリちゃんのアレ・・使った方がいいんじゃないか?」

「確かに、そうだな。ユーリ、扉に入ったら能力――鼓舞チアーを使ってもらえないか?」

「分かりました。入ったら、でいいんですね?」

「うん」


 ユーリの能力――鼓舞チアーを使うのも見るのも初めてだったけど、説明を見る限り劇的な能力向上が見込めるはずだ。ただ、どれくらい効果が継続するのかは『一定時間』としか書いていなかったため、戦いのなるべく直前のタイミングで使うべきだと判断した。


「よっしゃあ、じゃあ行くか」

「おう。タスク、油断すんなよ」

「馬鹿言えよ、俺はいつも本気マジだっての」


 そんな言い合いをしながら、ボスの間へと続く扉を開く。

 これも見慣れた光景だが、扉を開けるとほぼ同時に広い部屋の中が明るくなり、たむろしている骸骨の姿が見えた。扉を開けた俺たちの方を一斉に振り向く骸骨。


 十体以上いるその全てが剣と盾の武装をしており、今までの裏面のボスの間とは違うことを知らせた。更にその一番奥――武装した骸骨の向こう側に、かぶとを被り長剣を杖のようにして体の前に持っている骸骨が見えた。今までで、一度も見たことない奴だ。


「――ユーリ、使ってくれ」

「はいっ! いきます、鼓舞チアー!」


 俺の声にユーリが反応して能力を使う。

 その瞬間、体の周囲にどこからか集まってくるように光の粒がまとわりつき、それと同時に全身が軽くなった。手に持っているメイスも、見違えるように軽く感じる。


「タスク、いくぞっ!」

「おうよ!」


 俺の掛け声で、タスクと俺が部屋の中の敵に向かって駆けていく。

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