第22話 潜行準備
裏面内の『扉』付近の広間。
祭壇の石版に浮かび上がった文字を見て、俺とタスクは完全に固まっていた。
「あ、あの……何か問題でもありました……?」
俺とタスクの様子が明らかに変わったことに気付いたユーリがおずおずと喋る。
「いや、問題ってわけじゃ――」
「すげーよ、ユーリちゃん! なっ、ギイチ! 普通にすげーわ。強化もレベル1がカンストのレベル
「タスク、一人で盛り上がりすぎだ……」
喚くように喋るタスクに、ユーリもたじたじとしている。
タスクを
それに加えて、効果が異常な能力持ちである。ユーリがどこでそれを得たのかは知らないが、三種の強化値が『(3)加算』というのは異常だ。
「そう、なんですね……役に立てるといいんですが……」
「役に立つどころか、こっちがお世話になるってもんだよ! いやあ本当に凄いなあ。でも、
「そうだね、俺の
石版に表示されたユーリの能力を見る限り、すでに青ジェムで強化された『
確かに使い放題になったら便利すぎるのでこんなものだろう、という気持ちもあるが使いどころは考えないといけない。
「さーて、早速攻略に行きますか」
「タスク、
「今日はユーリちゃんもいるし大丈夫っしょ! 昨日みたいに助けてもらえるし、
「マジで何も考えてないんだなお前……まあいいか。そういえば、ユーリ。武器は?」
「武器……?」
早速昨日のリベンジに行こうと言うタスクとの話の中、ふとユーリの情報として書かれていた中で、『武具』の記述がないことに気付いた。
俺がかけた言葉にも、ユーリも『何の話?』と首を傾げている。
「こーいうやつだよ――――メイス、装備」
俺がユーリに手のひらを見せるようにしてそう言うと、開いた手の上の何もない空間からいつも使っている金属のこん棒――メイスが現れ、俺の手のひらに収まった。
緑ジェムで得られる武具は、裏面内であればこんな感じで装備することができる。何とも便利で不思議な現象だが、タスクとの裏面攻略でその感覚に慣れてしまった。反面、ユーリの方は何が起こったのか分からないようで、手品でも見たような顔をしている。
「すごい……それも、能力なんですか?」
「これはただの武器。ジェムを使えばこーいう感じに扱えるんだよ」
「いやいや、何よそのやり取り。レベル
裏面で使う武器のことを知らなかったユーリの反応に、タスクがそんな訳ないだろうとからかうように言ったのだが、ユーリの表情を見て怪訝な顔をする。
「だ、だからユーリはジェムは使ったことあるけど、裏面のことあんま知らないんだって! なっ、ユーリ?」
「そ、そうですね……」
「なーんか怪しいな。裏面攻略したことないのに
「ま、まあ細かいことはいいじゃん! タスクらしくないぞ!」
「まあいっか」
ユーリを訝しげに見るタスクに、俺とユーリでフォローを入れる。
まあまあと宥めると、タスクの方もすぐにどうでもよくなったようなので、内心で胸を撫で下ろす。
「さあ、気を取り直して攻略にいきますか!」
「もういいけど……今日は本当にやばかったらすぐに戻るぞ?」
「何回も言わなくても分かってるって! 安全運転な!」
「本当に分かってるのかなあ……」
こっちの話を聞いているのか分からないタスクが、さっさと扉に向かって歩いていってしまう。
残ったユーリの顔を見ると、慣れない環境で緊張しているのか微妙な表情をしていたが、俺の視線に気付いてにこっと笑い返してきた。
「私も頑張ります……でも、タスクくんって騒がしいけど面白い人ですね」
「まあアホだけど、面白くはあるな」
「ふふふ、仲いいんですね」
ユーリを加えた三人で裏面に潜るという、妙なことになってしまったが、ユーリの方もまんざらではなさそうだ。
とにかく、昨日のようなことがないよう気を引き締めて、タスクの後を追う。
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