第19話 レベル2《ツー》

「タスク! 起きろ、やばいぞ!」

「ん……? なんだよ急に――ってうわああああっ!」


 がばっと跳ね起きて大声でタスクに呼びかけると、脇に置いていたメイスを手に取る。薄暗い周囲には、何体もの骸骨がゆっくりとこっちに向かってくるのが見えた。


「お、おいおい、何で急に敵が出てくんだよ」

「これは……さっきの壁の中の穴にいたやつだ……」


 横に長い穴から、更に何体もの骸骨が這い出てくるのが見えた。

 片手に剣を持っているやつもいる。


「タスクっ! 起きれるか!」

「あ、ああ……いっつつ……」


 タスクを起こしながら迫ってくる骸骨との距離を取ろうとするが、数が問題だ。

 すぐ近くにいるやつでも十体ほど、奥の方にもさらに十体くらいの骸骨が見える。


「くっそおおおおお、何だってんだ! あああっ!」


 まともに動けていないタスクを背にやり、手前の数体の骸骨に打ち掛かる。

 やはり固く、まともに頭を殴りつけても一度では倒れてはくれない。何度か打ち掛かってやっと一体というような攻防を繰り返す。しかし状況を打開できるわけではなく、じりじりと壁の方に追いやられる。


「ギイチぃ……マジでヤバくないかコレぇ……」

「だからヤバいって言ってんだろ! 今更何言ってや――」


 目前に迫る骸骨の頭にメイスを食らわしてやろうと振りかぶると、予想以上に近寄られていたのか、腕を掴まれた。


「うわあああああっっ! 離せっ! 離せえぇっ!」


 恐怖に叫びながら、腕を掴んでくる骸骨の頭をメイスで闇雲に打ち付けるが、体重の乗っていない俺の攻撃を意に介さないような骸骨の顔が迫る。

 更に、メイスを持った方の手も、違う骸骨に掴まれた。


「うわっ! うあああっ! タスクっ、助けてくれええぇっっ!」

「そっ、そんなこと言われてもこっちもヤバ――うわああっ!」


 後ろにいたタスクに向けて叫ぶが、振り返るとタスクの方にも何体ものの骸骨が群がってきていた。絶望的な光景、俺の体に掴みかかる骸骨共の奥から、刃物を持ったやつまでもが迫ってきた。


「――ヨシカズくんっっ!」


 そんな絶体絶命の俺たちのもとに他方から人――女の子の声が届いた。

 何事かと声の方を見ると、壁の上に信じられない光景がある。


 ユーリ・・・だ。


「ヨシカズくん、あぶないっ! ――救出レスキュー!!」


 こんな所にいるはずのないユーリが叫んだかと思うと、一瞬の後、ユーリの顔が目の前にあった・・・・・・・。いや違う。慌てて周囲を見回して分かったが、俺は壁の上・・・にいた。

 

「一体どういう――」

「うわああっ! ギイチっっ、ギイチぃぃっっ!」

「やばっ、タスク!」

「――救出レスキュー!」


 壁の下に見えたタスクが骸骨たちの下敷きになりかけているのを見て俺が我に返った時、再度ユーリが叫ぶ。その瞬間、タスクの姿が消えた。


「えっ、タスク……?」

「えっ、ギイチ……?」


 姿を消したはずのタスクの声が後ろから聞こえ、振り返ると腰を抜かしたような体勢のタスクがいた。


「え、何コレ? てか誰、君?」


 タスクは立ち上がろうともせず、目を白黒させている。


「ユーリ、何でこんなところに……?」

「よかった、ヨシカズくん……ヨシカズくんが帰ってこないから何かあったんだと思って……」

「え、何? 知り合い?」

「いや、そんなことよりユーリ、何でここにいるのが分かったの? それに、今俺たちを助けたのって能力……?」


 俺の身を心配して駆けつけたような口ぶりのユーリだが、場所が分かるはずがないことと、裏面のことを知らないユーリが能力のようなものを使ったことに、頭が混乱するばかりだ。


「とにかく戻りましょう……ここは危険です」


 ユーリがそう言うので、混乱しきっている俺とタスクはこくこくと頷くだけだった。ここで話そうという気持ちにもならず、足を痛めたままのタスクに肩を貸してやり、三人で『扉』のある入り口の方へと戻っていく。


***


 裏面の入り口付近。俺たちは祭壇のある場所まで戻ってきていた。

 タスクには戻る道を歩いている中でユーリのことを説明していた。


「さあ、外に出ましょう」

「ちょ、ちょっと待ってくれよユーリ、一体何が何だか」

「危機一髪のとこ助けてもらってなんだけど……ユーリちゃんって一体何者? 裏面の上級者とか?」

「いえ、そういうわけでは……」

「ごめん、気になってしょうがないわ。さっきの能力・・と言い……」


 早く外に出ようと言うユーリだったが、納得いかないタスクが無理を言って、祭壇でユーリの情報を見ようといった。俺としては状況が状況なだけに、ユーリが言うとおり外に出ようという気持ちが強かったが、確かにタスクの言うとおり気になる。

 そのまま俺はタスクを止めることをせず、しぶしぶという感じでユーリが祭壇に向かった。


「これでいいの……?」

「うん、そうそう。その状態で『状態を出して』って」

「状態を……出して……」


 タスクに促されるがままのユーリが祭壇に手を置いた状態でそう呟くと、石版が光って文字が浮かび上がった。


 ――強化:敏捷(2)、認識(3)、精神(5)

 ――補助:救出(レスキュー)(10)、鼓舞(チアー)(10)


「能力が二つ……」

「タスク、これって……」

「ギイチ、ヤバいぞコレ……ユーリちゃん、レベルツーだ……」


 さっきまで生きるか死ぬかという状況だったにも関わらず、俺とタスクはそんなことを忘れてしまったように、石版の上に光る文字に目を奪われていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る