第17話 吊り橋

「なんとか倒せたけど……ちょっとヤバくないか? 俺、死にかけた気がするけど」

「バッチリ死にかけてたな」


 骸骨との戦闘のあと、タスクと俺はちょっと息を整えるような感じで、先には進まずに話している。


「いやいや……気安くいってくれるなオイ」

「まあ倒せるには倒せたし、気をつけてやれば大丈夫っしょ!」

「タスク、気楽だなお前……血、出てるぞ」

「こんなんかすり傷だっつーの!」


 さっきの戦いでお互い満身創痍だったのに、タスクは気楽なことを言ってくる。危険を感じたことがないんじゃないだろうか、コイツは。


「それでどうするよ、これから。俺、能力一回使っちゃったけど」

「勿論、進むっしょ!」

「大丈夫かよ……」

「なーに、ヤバそうになったら帰ればいいんだって!」


 結局、強引なタスクに押し切られる形となった。

 裏面うらめん内では怪我を心配する必要はあまりない。何でかは分からないが、裏面にある『扉』を出ると、入ってきた時と同じ状態になり、怪我も汚れもなくなっているからだ。腕を切り落とされても大丈夫だった、なんて話もある。

 しかし、死んだら無理だ。死んでしまっては裏面の外に出る術がないため、元に戻りようがない。致命傷も、ほとんど同じだ。


「……本当に、ヤバそうだったらすぐ戻るからな」

「だーいじょうぶだって! 心配性にも程があるぞ、ギイチ君?」

「お前が脳天気なだけだろ……」


 そんな会話をしながらも結局、奥へと進んでいた。

 最初の戦闘の後、単独で歩いていた骸骨と二度戦闘になったが、二人で囲んで無理しないように叩けば、さほどの危険もなく倒せることが分かった。

 それを知ったからか、俺にもちょっとした安心感が芽生えてくる。


 会話をしながら奥へと向かっていると、通路の切れ目でタスクが止まった。


「おい、ギイチ」

「橋……だよな?」


 通路の先は、だだっ広い空間があり、そこに橋があった。今まで入った裏面は高低差のないものだったので、急に出てきた橋に二人して驚く。


「なんで橋なんかあるんだよ。ここ室内だぞ……?」

「そんなこと知るわけないだろ。しかもコレ、吊り橋だな……」


 近くで見てみると、つたのようなもので吊られた木の橋だった。なんで橋なんかかかっているのかと下を見てみると、堀のようになっているのが見える。底は見えるものの、二階部分から見下ろしてるような深さだ。


「ここを、通れってことだよな?」

「他に道もないしな――ってオイ、待てタスク」

「なんだよ?」

「いや、何普通に渡ろうとしてんだよ」


 吊り橋の両側にある蔦に手をかけ、先に進もうとしたタスクを慌てて止める。


「橋が落ちたらどうすんだよ。これ結構深いぞ? 落ちたら多分上がってこれない」

「じゃあどうすんだよ。他に道もないだろ? まさかビビっちゃったの、ギイチ君?」

「てめえ……どうなっても知らねえぞ」

「悪かったって、そんな怒るなよ」


 タスクにあおられ、俺も吊り橋に手をかけてしまう。橋の下の高さを見ると、確かにビビってしまうが、落ちても死ぬほどの高さじゃない。多分。


「じゃあ行くぞ」

「ああ」


 橋を渡り始めたタスクに俺も続く。十メートルほどだろうか、結構長い橋だ。


「おいタスク、早く進めよ」

「あんま急がすなよ、俺だってちょっとビビってんだよ……」


 橋の丁度真ん中らへんというところで、足をかける板が傷んでる部分や、板がなくなってしまっている所があり、流石のタスクも気を付けながら進んでいる。


「だから早く進めって――お、おい。タスク……前!」

「え? うわわ、こんなとこで敵かよ」


 状態の悪い橋にまごついていると、橋の先にある通路の奥から、一体の骸骨が出てくるのが見えた。通路から出てきた骸骨は明らかにこっちを視認しており、橋に足をかけてずんずんと進んでくる。


「おい、どうすんだよタスク!」

「こんなとこで戦えねえだろって! ギイチ後ろに戻れよ!」

「急に言われたって……お、おい押すな」

「やばい、ギイチ戻れ――」


 バキッという鈍い音と共に、瞬間、タスクが視界から消えた。


「あ、あぶねー……」


 足元を見ると、タスクが木の板にしがみついている。橋の足場となる板を踏み抜いたのだ。


「だ、大丈夫かタスク……今引き上げてや――」


 今にも落ちそうなタスクを引き上げようと一歩前の板に足をかけた時、ミシっという嫌な音がした。そのすぐ後に、板が割れる音と共に俺の視界もがくんと落ちる。


 短い浮遊感のあとに来る衝撃。落下した。


「がっ……い、いってええぇぇ…………」


 地面に肩を打ち付けた痛みと共に、タスクの声が聞こえた。タスクも俺と一緒に落ちたのだ。


 落ちてしまったという認識までの一瞬の間の後、少し前方に何かが落ちてきて、ぐしゃっという音がした。

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