第16話 恐慌

 部屋の中に見える二体の骸骨がいこつは部屋の中をウロウロと歩き回っている。今までの敵と見た目の違いはさほどないものの、やはりその手に持つに目が行ってしまう。


アレ・・食らったらヤバいだろうなあ」

「ヤバいで済んだらいいけどな……」


 横で呑気なことを言っているタスクもそこまで馬鹿ではなく、部屋の中に飛び出して行ったりはしない。


「やっぱここは慎重にいった方がいいよな?」

「そうだね。二人で一体ずつやってこう」


 流石にこん棒ではなく刃物を持った相手だと慎重にもなる。こん棒だったら怪我で済むが、剣で貫かれでもしたら下手したら死ぬ。


「合図で部屋に出たら、手前のやつを囲むぞ」

「分かった」

「じゃあいくぞ。いち――にい――さんっ!」


 そう言ったタスクが駆け出していく。『3』が合図だと思わなかった俺は舌打ちしてタスクに一歩遅れて出るが、手前の骸骨を上手く挟む形になった。


「おいタスク! 合図っていったらカウントダウンか、『ゴー』とかだろうが!」

「言ってる場合か!」


 急に現れた俺たちに骸骨が向き直る。こっちを威嚇しているのか、口を大きく開けた骸骨からは骨が軋むような音がする。


「おおお――りゃっ!」


 タスクが勢いよく振りかぶって打ちかかったメイスは、骸骨の盾に受け止められた。派手な金属音が部屋の中に響いた。

 力が拮抗しているのか、タスクはそのままの姿勢で動かない。


「ぐっ……ギイチ、こいつ今までのやつより強い・・ぞ――うわあっ!」

「――タスクっ!」


 片手の盾でタスクのメイスを受け止めた骸骨は、もう片方の手に持った剣で突いてくる。胸のあたりを狙われたタスクは間一髪でそれを避け、地面を転がった。


「タスクっ、大丈夫か!」

「大丈夫だ――傷は浅いぞっ!」

「……そーいうのは自分で言うもんじゃないだろ!」


 タスクの声にはまだ余裕があり、大事には至ってないみたいだ。でも見るからに肩を抑えているので、骸骨の突きが肩を掠めたのだろう。

 地面に転がるタスクに、骸骨が迫っていく。


「こんのやろおぉぉおおお!」


 背中を向けた骸骨に、俺も勢いよく打ちかかる。狙うは頭、と振り下ろしたメイスが頭蓋骨を砕く。


「ざまあみやがれ――って、コイツまだ――」


 俺のメイスは確かに骸骨の頭を捉えたのだが、頭を完全に潰せなかったのか、骸骨が振り向きざまに剣を振るってきた。

 瞬間、しゃがみ込む格好――というか、後ろに転んだような形で骸骨が横に振った剣は避けられたが、今度は俺の方に向き直って迫ってくる。


「うわあああっ!」


 俺に向けて振り下ろされた剣をなんとかメイスで受け止めるが、覆いかぶさってくる骸骨の顔が迫る。

 その骸骨の頭が二度揺れ、そして砕けた。骨の破片がぱらぱらと落ちてくる。


「た、タスク……ごめん助かった」

「はあ……はあ……危ないぞ、ギイチ」


 俺に迫る骸骨の頭を、タスクが後ろから殴りつけたのだ。

 迫る骸骨の恐怖もさることながら、あの振り下ろされた剣。一歩間違えれば死んでいたかも知れない。


「ギイチ、早く立て。もう一体いるぞ」

「あ、ああ……」


 さっきの衝撃に忘れかけていたが、残った骸骨が悠々とした歩調でこちらに近付いてくる。立ち上がってその骸骨に向き直る中、タスクはその横に立つように移動していった。


「ギイチ、舐めてかかったらやべえぞ。今までのとは違う!」

「分かってるよ!」


 身をもって知った敵の強さ。

 持ってる武器や盾だけじゃない、明らかに危険な相手だ。


「俺が注意を引くから後ろから狙ってけ!」


 タスクがそう言って骸骨の気を引くように攻撃するフリのようなフェイントをかける。骸骨がそちらを向いた隙に、再度敵に飛びかかる。


「うおおっ――装填チャージ! おらああっ!」


 俺の渾身の一撃に、骸骨の頭――どころかその肩口の骨までが勢いよく砕けた。

 一拍おいて、糸が切れたように全身の骨がばらばらと地面に落ちる。


「……ギイチ、何で能力使っちゃってんだよ……」

「いや…………つい……」


 さっきの骸骨の恐怖が残っていたのか、三回しか使えない装填チャージを使ってしまった。タスクが『何やってんだ』というような視線を向けてくる。


 装填チャージの威力は十分に分かったが、これは失敗だ。裏面に入って初めて出くわした敵に能力を使ってしまうなんて。


「とにかく……なんとか倒せはするな」


 肩で息をする俺にタスクが声をかけてくる。

 まだ、入口から少し進んだだけだ。

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