第15話 次のステップ

「さて残ったこいつらをどう料理してやるか」

「改めて見ると、随分集めたもんだなあ」


 俺とタスクは、石版の上に置いた緑のジェムを眺めていた。


 青のジェムは三つを使っており、残った『好適こうてき』のジェムは使わないことにした。使ってしまってもいいのだが、若返りの力とも称されるこの『好適こうてき』のジェムは、裏面うらめんの攻略にはさほど効果がないとも言われている。若返りと言ったものの、俺たちが使ったところで更に若返るわけではない。

 この効果は、人の肉体が最も充実している状態に近づけるものだ、と評価されている。つまり、俺たちのような中学生が使った場合、より成人になった時の感覚に近くなるのだろう。それがどれほどの効果であるかも分からないし、これを使うくらいだったら他のジェムを使った方がいいだろうという判断だ。


 残った『好適こうてき』のジェムの扱いは後で決めるとし、タスクに一時的に預けておくことにした。ネコババをされたら困るが、タスクもそこまで馬鹿じゃないだろう。


 そして、残るは緑のジェムの扱いだ、ということだ。


「しかし、驚くこん棒・・・率だよな」

「ここまでとは思ってなかったな」


 俺たちの前にあるのは、ちまたではクズジェム・・・・・と言われているものだった。

 もはや数えてもいないが、四十個ほどのジェムが並んでおり、そのほとんどが『木のこん棒』だ。今時、ソーシャルゲームの課金ガチャでもこんな酷いことにはならないだろう。こん棒以外の緑のジェムが三つあるが、その三つ全てが既に俺たちが持っている『メイス』のジェムだ。今となっては必要ない。


「使いようはないからね。今度、に行ってみて売れるか聞いてみようよ」

「そうすっか! 小遣いくらいになるといいんだけどな!」

「あんま期待しない方がいいと思うけど」


 緑のジェムの処分は、俺たちが『メイス』のジェムを買ったところで聞いてみることにし、集めたジェムの分配はそこで終わりにした。結局、緑のジェムは持ってても邪魔なので全てタスクに押し付けた。


「さあ元気に裏面攻略を再開しますか!」

「おお」

「ノリ悪いなあ、ギイチ君。そこは元気に『おー!』でしょ」

「お、おおー」


 本日もタスクは絶好調のようで、うっとうしいやり取りもそこそこに奥へと進む扉を開く。


***


「なあ、そろそろ慣れてきたし違う『扉』に行ってみないか?」

「まだ早いんじゃないの? 初心者用以外の裏面うらめん、結構酷いって書いてあったよ?」

「今までのよりちょっと大きいくらいの『扉』だったら大丈夫っしょ!」

「そうだなあ……」


 裏面を攻略した後、そこを出る前に入口付近の広間でタスクと話をしていた。

 タスクがもっとレベルの高い裏面に行ってみようと提案してくるのだ。そう考えるのもこれまで四、五十の裏面を攻略してきたが、目ぼしい報酬が青のジェム四つだけ、という部分があるからだろう。ネットの情報では、難易度の高い『扉』の方が赤や青のジェムが出やすい、という話もあった。


 結局、タスクの提案もその通りだと思ってしまい、少しレベルの高い『扉』に入ってみることにした。


「で、どこに行く?」

「さっき探してる時に、ちょっと大きいからスルーした『扉』があったじゃん? そこにしようぜ」

「あー、灰色のやつな。まああのくらいだったら、問題ない……のかな?」

「じゃあ決まりだな! 早速行こうぜ!」


 俺とタスクは攻略をした裏面うらめんを出て、目的の『扉』まで向かうことにした。

 正直言うと日を改めた方がいいのではと思ったが、まだ時間も昼過ぎの頃合だし、明日も学校が休みだし、という気持ちがあって、タスクの提案に乗る形にした。


 すぐ近くにあった灰色の『扉』――今まで入っていた裏面のものより少し大きく、文庫本くらいのサイズがある。これでもまだ初心者用だというのだから、誰の目にも留まるくらい大きな『扉』などはどんな世界があるのか、と思ってしまう。


「入口の雰囲気はあんま変わらないんだな」


 俺たちはその『扉』に入り、祭壇のある広間にいた。


「確かに、今までのとそう変わらないね」

「中に入ってみりゃ分かるか。ちょっと気を引き締めていかないとな」

「タスクは適当すぎるんだよ。俺はいつも気をつけてるぞ」


 そんなやり取りをした後、広間の扉を押し開けて奥へと進んでいく。

 入口の見た目もさほど変わらなかったが、中も同様だった。地下の墓所のような場所。狭い通路やその両脇にある灯りの感じも一緒だ。


 狭い通路をタスクと進んでいくと、通路から広間に出るような所で前を進んでいたタスクが止まった。


「これが違いかー。ギイチ、見てみろよ」

「敵か?」

「ああ」


 通路から広間内を伺っているタスクの横から俺もその中を覗きこむ。


 広間内には、今までと同じような骸骨がいこつの敵がいたが、今までとの違いはその手に持つ武具だった。

 その骸骨は、五十センチくらいの刀身を持つ剣と、丸い盾を持っていた。

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