第14話 分配

「さて、ギイチ君。ここに大量のジェムがある」

「ほとんど緑だけどな」

「それは言うな。そしてここに、四つの青ジェムがある」

「こんだけ潜って四つだけどな」

「それも言うな」


 俺とタスクは手ごろな裏面うらめんに入り、その入口付近の祭壇横で話をしていた。今日は裏面攻略もほどほどに、手に入れたジェムの分配をしようということにしていたのだ。


 俺とタスクが初めて二人で裏面に入った日は先々週。

 それから休みの日はほとんど丸一日、学校のある平日は放課後に時間が許す限り、という感じに裏面攻略にのめりこんでいた。その間、ずっとユーリとは行動を共にしていなかったのが心残りとなっていたが、タスクと二人でガンガン裏面を攻略するのは単純に楽しかった。


 目の前の石版の上には四十ほどのジェムが並べてある。

 そのほとんどが緑色のものだが、青のジェムが四つ存在する。


「さて、その内訳だが、『膂力りょりょく』『敏捷びんしょう』『好適こうてき』『精神せいしん』の四つだ。ギイチ君、我々はこの分配を考える必要がある」

「さっきから何だよその喋り方。というか、誰に説明してるんだ」

「確認だよ! こーいうのは改めて確認することが大事なんだよ!」

「分かったよ……テンション高いなあ」


 今日のタスクは朝からテンションが高かった。

 青のジェムの分配をすることにしていたことが原因だろうけど、少しうっとうしい。


 俺とタスクは日々裏面うらめんの攻略を進めていたのだが、そこで手に入れた青ジェムを使わずにいた。理由は青ジェムの価値の高さが一因だが、他にもある。


 まず、青のジェム――正確には『レベル1』と言われている青のジェムは、合計で一人十個しか使えないという制約があった。これもネットで調べた情報によるものだが、『レベル1』のジェムを十個使うと、それ以降は『レベル1』のものは使用自体ができないというものだ。

 何故そんな制約があるのかは分からないが、要は考えながらジェムを使っていかなければならない、ということだ。


「まずは『膂力りょりょく』『敏捷びんしょう』の二つのどっちを取るかが、最重要事項である」

「そうだろうなあ」

「ギイチ君、ノリが悪いぞキミ


 タスクが俺のノリの悪さに文句を言いながら、青のジェムを二つ取り上げる。

 この二つのジェム、それと今はないが『耐久たいきゅう』のジェムは、青のジェムの中でも特に人気がある――すなわち、重要なものだ。世間的には青のジェムであればどれも人気があるのだが、何故特に人気が高いのかと言うと、裏面うらめん攻略に際して特に重要だからだ。

 裏面攻略には危険がつきものだ。この三種の青のジェムは、その裏面攻略の安定性に大きく影響する。平たく言うと、死のリスクを下げられるというものだ。


「俺的には『膂力りょりょく』かなあ」

「俺も『膂力りょりょく』だわ」

「じゃあ、ジャンケンで決めるか」

「よしきた」


 結果的に『膂力りょりょく』のジェムの取り合いとなった。

 単純に人気があることもあるが、殴り合いを強いられる裏面内では、つまり腕力がものを言う。『膂力りょりょく』のジェムは五つほどを使えば、一般人がプロレスラー並みの力を得ることができるとも言われている。その効果は絶大だ。


「まさか……この俺が負けるとは……」

「大げさだな。まあ勝ったから俺がもらうぞ」

「じゃあ俺は『敏捷びんしょう』をもらう!」


 タスクとの勝負は一合いちごうで決着がついた。

 負けたタスクは『敏捷びんしょう』を取ると言ったが、これも勿論人気が高いものだ。『膂力りょりょく』と同じくこれも効果は大きく、五つほど使えば一般人がオリンピックに出るアスリート並みの脚力を得ると言われている。真偽のほどは定かではないが。


「どんな感じ? 足速くなったりするのかな?」

「うーん、実感はないけどな。ちょっと走ってみっか」


 どっちがどっちの青のジェムを使うかというやり取りが終わった後、タスクは『敏捷びんしょう』のジェムを、俺は『膂力りょりょく』のジェムを使った。体感からすると、力強くなっている感じもしないが、タスクの方も似たような感覚なのか、広間の端までいって走る準備などをしている。


「……どう? 違う?」

「うーん、なんとなく速くなったような。よく分かんねえな」

「まあ一個だけだと大した効果もないのかもね」

「それより残ったやつだけど……ギイチ、『精神せいしん』使っとく?」

「どうしよっかなあ」


 タスクも微妙なトーンで言ってくるが、悩みどころなのは『精神せいしん』のジェムを使うかどうかだった。

 このジェムの効果は平たく言うと、赤のジェムで得た能力の使用限度回数を増やすこと、のみであるためだ。俺が赤のジェムで手に入れた能力――装填チャージの効果はかなりのものだったが、ジェムが使える回数に限度がある以上、その使用回数を増やすためだけに使っていいものかが分からない。


「まあでも、青ジェム自体中々取れないし、使った方がいんじゃね?」

「そうだよなあ、じゃあ使っとくか」


 俺はタスクの提案に乗ることにした。

 確かに使用回数の制限があるとは言え、使えるときに使っとくべきだろう。


「どんくらい変わるもん?」

「やっぱそんな変わらないな……タスクも見てみろよ」


 俺は『精神せいしん』のジェムを使った後、石版に自分の状態を表示していた。


 ――強化:膂力(1)、精神(1)

 ――補助:装填(チャージ)(3)

 ――武具:メイス(1)


 その表示上に出ていた情報によると、精神せいしんの青ジェムを使った後の違いといえば、装填チャージの使用回数が二回増えているくらいのものだ。確かに重要ではあるが、何とも微妙である。


「がっと、十回くらい増えてくれればいいのにな」

「ま、まあ……ギイチのやつは、かなり使える能力だし」


 裏面内の石版を二人で眺めながら、珍しくフォローをするタスクの乾いた笑いが響いていた。

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